
デザインを始めたばかりの頃って、どうしてもいろいろやってみたくなるものです。
かっこいいフォントを見つければ使ってみたくなるし、少し変わったレイアウトを見ると自分でも試したくなる。写真を大きく見せたり、文字を動かしたり、背景にグラデーションを入れてみたり。
これは全然悪いことではありません。むしろ、いろいろ試す時期があるからこそ、自分なりの感覚も少しずつ身についていくんだと思います。
ただ、仕事としてデザインを続けていると、だんだん別のことが気になってきます。
「きれいに作れているか」よりも、「ちゃんと伝わっているか」。
この二つは似ているようで、意外と別物なんですよね。
初心者デザイナーが陥りやすいことを考えてみると、技術の問題というより、どうしても“作る側の目線”に寄りすぎてしまうことが多いような気がします。
デザインを見すぎると、デザインばかり見るようになる
デザインを勉強し始めると、当然ですが他のデザインを見る機会が増えます。
Pinterestを眺めたり、デザインギャラリーを見たり、気になる会社のホームページを保存して研究したり。そうやってたくさん見ること自体は、とても大事なことです。
見れば見るほど、少しずつ「デザイナーが気になるポイント」に目が向くようになります。
文字の組み方が面白い、この余白の取り方がきれいだとか、アニメーションの動きが気持ちいいなど気になってしかたない。
それはそれで楽しいです。
でもホームページを見る普通のお客様は本当にそこを見ているのかなと。
多くの人はもっとシンプルで、「ここは何の会社なんだろう」「自分がお願いできる会社なのかな」「料金はどこに書いてあるんだろう」と考えながら見ています。
こちらが余白の美しさに感動している横で、お客様は電話番号を探しているかもしれません。
ちょっと寂しい話ですが実際そんなもんだったりします。
だからこそデザインを勉強すればするほど、ときどき普通の人の目線に戻る必要があるんだと思います。
足したくなる気持ちはよく分かる
初心者の頃はひとつの画面にいろいろ入れたくなります。
キャッチコピーも見せたいし写真も使いたい。ボタンも目立たせたいしアイコンも入れたい。せっかく考えた説明文も削りたくない。
作った側からするとどれも大事に見えるんですよね。
でも、全部を大事にすると見る側には何が一番大事なのか分からなくなることがあります。
たとえば赤い文字が一か所だけなら、そこに目がいきます。
でも赤い文字があちこちにあればもう赤が普通になってしまう。
文字の大きさも同じです。
「ここを目立たせたい」と思って大きくした場所が増えすぎると結局どこから読めばいいのか分からなくなる。
デザインというと「何を入れるか」を考える仕事に見えますが実際には「何を入れないか」を決める時間もかなりあります。
しかも、こっちのほうが難しい。
せっかく作ったものを消すのはちょっと勇気がいりますからね。
それでも一つ要素を減らしただけで、急に大事な言葉が見えるようになることがあります。
不思議なものです。
パソコンの画面だけ見ていてもその会社らしさは出てこない
制作をしていると、一日のほとんどを画面の前で過ごします。
フォントを変えてみる、色を少し調整したり写真の位置を動かしてみたりする。数ピクセルの違いが気になって、何度も見比べているうちに時間が過ぎることもあるでしょう。
ただ、本当はその前に見たほうがいいものがあります。
その会社です。
どんな仕事をしているのか。
どんなお客様が来ているのか。
なぜ長く選ばれているのか。
社長は普段どんな話をしているのか。
社員さんはどんな雰囲気なのか。
こういう部分を知らないままデザインすると、見た目は整っていてもどこかで見たような会社になりやすいでしょう。
製造業なのになぜか都会のIT企業のようなホームページになっていたり。
何十年も地域で続いている会社なのにその積み重ねがまったく見えてこなかったり。
見た目は悪くない。
でも、その会社じゃなくても成立する。
それは少しもったいないなと思います。
会社には最初からその会社らしさがあります。
デザイナーがゼロから作るというより、それを見つけて整理する。そこからあらためて見える形にする。
僕はそのくらいの距離感のほうが会社の魅力は伝わりやすい気がしています。
「自分の作品」になりすぎると少し危ない
デザインをしているとだんだん愛着が出てきます。
このレイアウトはうまくできたなとか、この写真の使い方は結構いいなとか。
そう思えることは大事ですし仕事の楽しさでもあります。
ただ、「これは自分の作品だ」という気持ちが強くなりすぎると少し方向がずれることがあります。
ホームページもチラシもロゴも主役はデザイナーではありません。
会社です。
もう少し言えばその会社が伝えたい相手です。
採用サイトなら求職者ですし、お店のホームページなら「行ってみようかな」と迷っている人。
会社案内ならその会社を初めて知る人です。
その人が見たときにどう感じるのか。
そこを考えるようになると、判断基準も少し変わってきます。
「このデザインが格好いいか」よりも、「この会社らしく見えるか」。
「自分が好きか」よりも、「相手が迷わず分かるか」。
こういうことを考え始めるとデザインって急に難しくなります。
でも、面白くもなります。
上手なデザインより迷わないデザイン
たまに、ものすごくシンプルなのに印象に残るホームページがあります。
派手な動きがあるわけでもなく色もそれほど多くない。
それでも何をしている会社なのかがすぐ分かって、実績も探しやすく問い合わせ先も迷わない。
見終わったあとに「こういう会社なんだな」と自然に残る。
こういうホームページを見るとうまいなと思います。
デザインに詳しくない人からするとたぶん「普通」に見えるかもしれません。
でも、この普通が難しい。
料理でも、いろいろな味を重ねたものより材料が少ない料理のほうがごまかしが効かないことがあります。
デザインも少し似ている気がします。
派手な表現が少ないほど、何を見せるか何を見せないかという判断がそのまま出ます。
「何もしていないように見える」というのは、意外と考えた結果だったりするんですよね。
初心者だから気付けることもある
ここまで書くと、初心者デザイナーは失敗ばかりするように見えるかもしれませんが、もちろんそんなことはありません
むしろ、初心者だからこそ持っている感覚があります。
「この文章、何を言っているのか分からない」
「このボタン、何のためにあるんだろう」
こんな素朴な疑問は、実はかなり大事です。
業界に長くいると分かってしまうことが増えます。
専門用語も読めるようになるしホームページの構造もだいたい予想できる。
そのぶん、普通の人が迷う場所に気付きにくくなることがあります。
だから最初に感じた違和感を簡単に流さないほうがいい。
自分が分からなかったのなら初めて見る人も分からないかもしれません。
初心者であることが、見る側に近いという強みになることもあるんです。
デザインは会社を見る仕事なのかもしれない
デザインを始めた頃は、技術を覚えることに意識が向きます。
フォントに配色、レイアウトや写真の使い方。
もちろんどれも必要です。
僕も新しい表現を見れば面白いと思いますし技術は知っているほうが選択肢が増えます。
ただ、仕事を続けていると技術より前に考える時間のほうが長くなってくる気がします。
この会社は何を大切にしているんだろう。
お客様はなぜここを選ぶんだろう。
社長が当たり前だと思って話していることの中に、実はすごいことが隠れていないだろうか。
そういうものを探している時間です。
考えてみればデザインは見た目をきれいにする仕事というより会社の中にあるものを整理して、相手に伝わる形に変える仕事なのかもしれません。
初心者の頃はどうしてもパソコンの中に答えを探したくなります。
でも、ときどき画面から目を離して会社そのものを見てみると意外なところにヒントがあります。
デザインを覚えることと会社を見ること。
たぶん、その両方が少しずつできるようになってようやく「伝わるもの」に近づいていくのだと思います。

株式会社ガイネット代表取締役 趣味は神社仏閣巡り 初めてホームページを作ったのは20年以上前。そこから2社ほどで修行し33歳でフリーランスに、色々あって今さら法人設立。WEBとデザインの何でも屋であり書家でありYouTuberです。