
一蘭って、ラーメンそのものだけでなく「食べ方」まで記憶に残るお店ですよね。
味集中カウンターに座って、オーダー用紙に丸をつけて、仕切りの向こうからラーメンが出てくる。替玉を頼むときも、大きな声で店員さんを呼ぶのではなく、替玉プレートを置くとチャルメラが鳴る。
あの一連の流れを思い出すだけで、「あ、一蘭だ」とわかります。
これはかなりすごいことです。
ラーメン屋は全国に数えきれないほどあります。とんこつラーメンの店もたくさんありますし、おいしいラーメン屋もたくさんあります。
その中で一蘭は、味だけではなく、注文して、座って、集中して、食べるまでの体験そのものをブランド化しています。
今回は、一蘭がなぜラーメンの“食べ方”までブランドにできたのかを考えてみます。
一蘭の基本情報
一蘭は、福岡発の天然とんこつラーメン専門店です。
公式会社概要によると、創業は1960年、設立は1993年。2025年度実績の年商は477.1億円、2026年5月時点の店舗数は92店舗で、国内84店舗・海外8店舗を展開しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 創業 | 1960年 |
| 設立 | 1993年 |
| 年商 | 477.1億円 |
| 店舗数 | 92店舗 |
| 国内店舗 | 84店舗 |
| 海外店舗 | 8店舗 |
この数字を見ると、一蘭は店舗数だけで圧倒的に多いチェーンというより、限られた店舗数で非常に強いブランド力を持っている会社だとわかります。
もちろん、年商には店舗売上以外の要素も含まれている可能性がありますが、それでも92店舗で477億円規模というのは、かなり強い数字です。
一蘭の特徴は、多店舗展開だけに頼っているのではなく、ひとつひとつの店舗体験に強い記憶を残しているところにあります。
一蘭の本質は「味」だけではない
一蘭といえば、とんこつラーメンです。
ただ、経営やマーケティングの視点で見ると、一蘭の本質は「味」だけではありません。
一蘭の強さは、
ラーメンを食べる一連の流れを“型”にしたこと
にあると思います。
味集中カウンターに座る。
オーダー用紙で好みを書く。
周りを気にせずラーメンに向き合う。
替玉も声を出さずに注文できる。
この流れ全体が、一蘭らしい体験になっています。
普通のラーメン屋は、味・価格・立地・回転率で勝負することが多いと思います。
もちろん一蘭も味にこだわっています。
ただ、それだけではなく、
「どう食べてもらうか」まで設計している
のが非常に面白いところです。
味集中カウンターは、ただの仕切りではない
一蘭といえば、やはり味集中カウンターです。
両隣との間に仕切りがあり、正面には暖簾のような仕切りがある。店員さんと顔を合わせる場面も少なく、周囲を気にせずラーメンを食べられる空間です。
一見すると、ただの一人席のようにも見えます。
しかし、味集中カウンターは単なる仕切りではありません。
一蘭公式のコラムでは、味集中カウンターは代表の吉冨氏が「本物の味を見極めるには、味に集中できる環境が必要」「作り手の雰囲気を排除したい」「女性が気軽に入りやすい店にしたい」という思いから考案したものだと説明されています。
ここが非常に重要です。
味集中カウンターは、接客を減らすための仕組みではなく、お客様の不安やノイズを減らすための仕組みです。
周りの目が気になる。
一人でラーメン屋に入りにくい。
店員さんとのやり取りが少し苦手。
初めての店で注文の仕方が不安。
自分のペースで食べたい。
こうした小さな心理的ハードルを下げているのが、味集中カウンターなのだと思います。
「一人で食べる」を価値に変えた
一蘭が面白いのは、一人で食べることを寂しく見せていないところです。
普通、一人客にやさしい店は「一人でも入りやすい」と表現されます。
でも一蘭の場合は、もう少し踏み込んでいます。
一人で食べるからこそ、一蘭らしい。
周りを気にしないからこそ、味に集中できる。
自分だけの一杯に向き合える。
つまり一蘭は、「一人でも大丈夫」という補助的な価値ではなく、
一人で食べることそのものをブランド体験に変えている
のです。
これは、かなり大きな発想だと思います。
弱点に見えそうなものを、価値に変えているからです。
一人席は、回転率を上げるための仕組みにも見えます。
でも、一蘭はそれを「味に集中する体験」として見せています。
この見せ方が上手い。
オーダー用紙は、カスタマイズと効率化を両立している
一蘭のもう一つの特徴が、オーダー用紙です。
味の濃さ、こってり度、にんにく、ねぎ、チャーシュー、秘伝のたれ、麺のかたさなど、7項目から好みを選べます。
お客様から見ると、自分好みの一杯にできる楽しさがあります。
一方で、店舗側から見ると、聞き間違いや伝達ミスを減らし、注文内容を標準化できる仕組みでもあります。
つまりオーダー用紙は、
顧客満足と店舗効率を同時に上げている
わけです。
ここは経営者目線で見ると、かなり学びがあります。
お客様は「自分で選んだ」という感覚を持てる。
店舗は注文を正確に受けられる。
外国人観光客や初めて来る人も流れに乗りやすい。
スタッフの説明負担も減る。
これは単なる注文票ではありません。
お客様の体験をよくしながら、現場のオペレーションも整える仕組みです。
替玉注文システムも、一蘭らしさを作っている
一蘭では、替玉を注文するときに替玉プレートを呼び出しボタンの上に置くと、チャルメラが鳴り、スタッフが注文を受けに来る仕組みがあります。
これも、かなり一蘭らしい仕組みです。
普通であれば、替玉を頼むときは店員さんを呼びます。
でも一蘭では、声を出さなくても注文できる。
味集中カウンターでラーメンに集中し、替玉もその流れを崩さずに注文できる。
そして、チャルメラの音が鳴ることで、ただの注文が少し記憶に残る体験になります。
ここまで含めて、一蘭の「食べ方」は完成されています。
一つ一つの仕組みは小さく見えるかもしれません。
しかし、味集中カウンター、オーダー用紙、替玉プレートが組み合わさることで、一蘭でしか味わえない体験になります。
一蘭は、メニューを増やすより体験を深めた
飲食店では、売上を伸ばすためにメニューを増やしたくなることがあります。
新商品。
限定商品。
サイドメニュー。
セットメニュー。
季節商品。
もちろん、それも大切です。
ただ、一蘭の強さは、メニューを増やして選択肢を広げるというより、ひとつのラーメン体験を深く作り込んでいるところにあります。
基本は天然とんこつラーメン。
そこに、味集中カウンター、オーダー用紙、替玉システム、赤い秘伝のたれ、臭みのないとんこつスープといった要素を重ねています。
つまり、商品数で勝つのではなく、
一杯のラーメンをどう特別な体験にするか
で勝っているのです。
これは、非常に強いブランド戦略だと思います。
接客を減らしたのではなく、不安を減らした
一蘭は、店員さんとの会話が少ないお店です。
ただ、それは冷たい接客という意味ではありません。
むしろ、余計な不安を減らすための設計だと見ることができます。
一人で入りにくい。
注文の仕方が不安。
周りの目が気になる。
店員さんに話しかけるのが苦手。
外国語で注文できるか心配。
こうした不安を、空間や紙の仕組みで解消しています。
人の温かさを全面に出す接客も大切です。
一方で、必要以上に話さなくても安心して利用できる設計も、今の時代には大きな価値になります。
特に、一人利用、インバウンド、初回来店、女性客などにとって、この心理的ハードルの低さはかなり大きいと思います。
海外展開にも合いやすい仕組み
一蘭は国内だけではなく、海外にも店舗を展開しています。
ここでも、味集中カウンターやオーダー用紙は強い仕組みになります。
言葉が通じなくても、注文の流れがわかりやすい。
自分の好みを紙で選べる。
店員さんとの複雑な会話が少ない。
一蘭らしい体験が世界中で再現しやすい。
海外展開では、味そのものだけでなく、体験の再現性が重要です。
一蘭は、味だけではなく「食べ方の型」まで持っているから、海外でも一蘭らしさを伝えやすいのだと思います。
一蘭から学べるマーケティング
一蘭から学べることは、かなり明確です。
それは、
商品を差別化するだけではなく、商品を体験する流れまで差別化すること
です。
ラーメン屋はたくさんあります。
とんこつラーメンもたくさんあります。
美味しいお店もたくさんあります。
その中で一蘭は、「味」だけでなく「食べ方」を独自化しました。
お客様は、商品だけを覚えているわけではありません。
どんな空間で食べたか。
どんな注文の仕方だったか。
どんな気持ちで過ごしたか。
誰にも邪魔されず集中できたか。
替玉を頼むときにどんな体験があったか。
そうした一連の体験を覚えています。
一蘭は、そのことを非常にわかりやすく教えてくれるブランドです。
中小企業にも応用できる考え方
この考え方は、飲食店だけの話ではありません。
中小企業の広告やブランディングにもかなり通じます。
飲食店なら、料理だけでなく、注文の仕方、席の作り方、提供の流れ、写真を撮りたくなる瞬間まで設計する。
整骨院なら、施術だけでなく、初回相談、説明、通院計画、LINEフォローまで設計する。
工務店なら、家だけでなく、相談会、見学会、打ち合わせ、引き渡し後の関係まで設計する。
美容室なら、カットだけでなく、カウンセリング、仕上がり確認、写真の撮り方、次回来店の提案まで設計する。
制作会社なら、ホームページやチラシだけでなく、ヒアリング、提案、納品、広告導線、SNS運用まで設計する。
お客様が本当に覚えているのは、商品やサービス単体ではありません。
その会社と関わった一連の体験です。
そこを設計できる会社は、価格だけで比較されにくくなります。
まとめ
一蘭は、ラーメンを売っている会社です。
でも、それだけではありません。
味集中カウンター、オーダー用紙、替玉注文システムによって、ラーメンを食べる流れそのものをブランド化しています。
一人で入りやすい。
周りを気にしなくていい。
自分好みに注文できる。
声を出さずに替玉を頼める。
一杯のラーメンに集中できる。
この体験が、一蘭を一蘭らしくしています。
一蘭の強さは、ラーメンの味だけではなく、ラーメンを食べる時間そのものを設計していることです。
経営やマーケティングにおいて大切なのは、良い商品を作ることだけではありません。
その商品を、お客様にどう体験してもらうか。
どんな流れで記憶に残すか。
どんな不安を取り除くか。
どんな場面でまた思い出してもらうか。
一蘭を見ていると、ブランドとは「商品名」や「ロゴ」だけではなく、体験全体に宿るものなのだと感じます。
デザイン系の専門学校卒業後、WEB動画系会社、フリーランスを経て現職へ。株式会社ガイネット取締役。映像制作、SNSプロデュース、グラフィックデザイン、イラストを手掛ける。