
「みんなの工場」に行ってわかった、デザインが装飾ではなく経営になる瞬間
先日、砂川にあるSHIROの本店、「みんなの工場」に行ってきました。
いやあ、勉強になりました。
仕事柄、こういう場所へ行くと商品より先にサインを見たり、壁の文字組みを見たり、なぜここに余白を取ったんだろうとか、あまり一般のお客さんが気にしないところまで見てしまいます。
職業病です。
でもSHIROの場合、その見方をしても全然飽きませんでした。
建物の空気、グラフィック、商品の置き方、工場の見せ方、カフェ、そこで働く人たち。そしてお客さんの過ごし方まで含めて、一つのブランドとして妙に筋が通っている。
「SHIROって、おしゃれですよね」
だけで片付けるには、ちょっと惜しい場所でした。
本店というより、SHIROを立体にした場所だった

「みんなの工場」は2023年、SHIRO創業の地である北海道砂川市にオープンしました。
名前の通り工場なのですが、一般的な「工場見学施設」を想像すると少し違います。製造現場のすぐ隣にショップやカフェがあり、香りをつくれるブレンダーラボ、子どもが遊べる場所まで一つの建物に入っています。
僕が行った日もかなり盛況でした。
SHIRO目当てで来た人もいれば、カフェで過ごしている人もいる。子ども連れもいる。工場の中をじっと見ている人もいる。
お客さんが「商品を買ったら帰る」という動きをしていないんですよね。
施設そのものを楽しんでいる。
これがまず面白かったです。
SHIROは砂川に大きな売店をつくったのではなく、自分たちのブランドをそのまま歩けるサイズまで拡大したような場所をつくったんだと思います。
化粧品工場なのに、隠すどころか一番よく見える
中でも印象的だったのが、工場です。

研究開発室や素材の前処理、調合、充填、包装など、実際に製品が出来上がっていく場所がガラス越しに見えるようになっています。
普通、「工場」は裏側ですよね。
店舗から見えない場所にあり、完成品だけがお客様の前へ出てくる。
SHIROは逆です。
むしろ、つくっているところをかなり堂々と表へ出しています。
これ、ただの工場見学サービスではないと思います。
ブランドの言っていることに、実物で証拠を付けているんですよね。
SHIROは昔から自然素材や生産者との関係を大事にしてきたブランドです。
「素材を大切にしています」
文章にすれば一行で終わります。
でも、ガラスの向こうで人が実際に製品をつくっているところを見ると、その一行に急に厚みが出る。
広告コピーで「丁寧なものづくり」と書くより、目の前でつくっているところを見せてしまった方が話が早い。
百聞は一見にしかずとは、まあこのことです。
SHIROは、最初からSHIROだったわけではない
今のSHIROを見ると、最初から東京の青山あたりで生まれたデザイン会社のようにも見えます。
実際は北海道・砂川が原点です。
前身の株式会社ローレルは1989年に創業し、当初は北海道の観光土産品などを製造・卸販売する会社でした。
その後、生活雑貨や化粧品のOEMへ事業を広げ、2009年に「自分たちが毎日使いたいものをつくりたい」という思いから自社ブランドLAURELを立ち上げます。
2015年に「shiro」。
2019年には「SHIRO」へ。
今でこそ国内外に店舗を持つブランドですが、ルーツを辿れば砂川の製造会社なんですよね。
だからこそ、あの場所に巨大な説得力があります。
東京に旗艦店をつくることはできます。
札幌の一等地に立派な店舗をつくることもできる。
でも、「ここでつくっています」は砂川でしか言えません。
ブランドの発祥地って、後からお金を出して買えないんです。
これ、ものすごく強い資産です。
おしゃれなのに、デザインが前へ出すぎていない
SHIROへ行って改めて感じたのは、デザインがかなり強いのに、「デザインしました!」という圧が薄いことでした。
ここは僕ら制作側の人間ほど勉強になる気がします。
グラフィックも建築も、かなり整っています。
でも、目立ちたがらない。
「このサイン格好いいでしょ」「この内装すごいでしょ」と一個ずつ主張してくる感じがないんですよね。
むしろ、素材や製品、人の動きがちゃんと主役になるように一歩引いている。
こういうデザインって、実はかなり難しいです。
制作をしていると、つい何かを足したくなります。
せっかくデザインするんだから、もっと特徴を出したい。もっと目立たせたい。何か一発入れたい。
気持ちはものすごくわかります。
僕もデザイナーなので。
でもSHIROを見ていると、「何を足すか」より「何を邪魔しないか」の方が大切な場面もあるんだなと思わされます。
余白があるから素材が見える。
静かなグラフィックだから、商品の存在感が立つ。
説明しすぎないから、その場所を歩いて自分で発見できる。
あれだけ人が多いのに、施設全体がガチャガチャして見えない。
この匙加減、なかなか見事でした。
SHIRO CAFEまで、化粧品ブランドの話の続きになっている
最初はちょっと不思議なんですよ。
化粧品会社なのに、なぜカフェまでやるんだろう。
でもSHIROのものづくりを知ると、ちゃんと話がつながります。
SHIROでは酒かす、がごめ昆布、米ぬか、ラワンぶき、ハマナスなど、食品としても馴染みのある自然素材をスキンケアに使っています。
だからカフェは単なる「おしゃれ施設にカフェを付けました」ではありません。
普段は化粧品の成分として見ている素材を、今度は食べ物として体験できる。
ブランドの別ページみたいなものなんですよね。
化粧品売場の横で急にピザを売っているわけではない。
ちゃんと一本の話の中にいる。
こういうのを見ると、ブランドの事業領域って「何屋か」だけで決めなくていいんだなと思います。
化粧品会社だから化粧品だけ売るのではなく、自分たちが何を大切にしている会社なのかを起点にすれば、カフェも成立する。
2025年には同じ敷地に「MORISHIRO」というレストランまでオープンしています。
商品カテゴリーでブランドを広げるのではなく、思想から横へ広げている。
ここはかなりうまいです。
2年半で71万人が来た「工場」
僕が訪れた時も人が多かったのですが、どうやらたまたまではありません。
「みんなの工場」は、2025年11月時点でオープンから約2年半、累計71万人が訪れています。
砂川市の人口規模を考えると、とんでもない人数です。
そもそも2023年のオープン直後、最初の10日間だけでも約2万2,000人が訪れました。当時の砂川市の人口を上回る数字です。
ショップとカフェの取扱金額も、以前の砂川本店と比べて同期間で約4倍。
これを見ると、「ブランディングは売上になるのか」という議論への一つの答えにも見えてきます。
きれいな建物をつくれば人が来る、という単純な話ではありません。
わざわざ砂川まで行きたくなる理由を、建物の中に何層も用意した結果なんだと思います。
商品だけなら、札幌でも東京でも買えます。
オンラインでも買えます。
それでも砂川へ行く。
ここが重要です。
EC全盛の時代に、実店舗がネット通販へ勝つ方法って、品揃えを増やすことだけではないんですよね。
「ここへ来ないと得られないもの」をつくる。
それがちゃんとできていました。
地方にあることを、弱みにしない
これは北海道で仕事をしている僕らとしても、かなり考えさせられました。
地方企業の相談では、
「札幌じゃないから」
「東京じゃないから」
「人が少ないから」
という話がどうしても出てきます。
もちろん、立地による不利はあります。
砂川だって、東京の表参道みたいに朝から何万人もの人が勝手に前を通ってくれる場所ではありません。
それでもSHIROは、創業地であることを価値に変えた。
「砂川なのにすごい店をつくった」ではなく、
「砂川だからここへ来る意味がある」
まで持っていった。
この違いは大きいです。
地方のブランディングって、都会っぽく見せることではないんですよね。
自分たちにしかない文脈を掘り起こして、それを現代の見せ方で編集する。
砂川という場所を消してSHIROを格好良くしたのではなく、砂川までSHIROのブランドに入れてしまった。
これ、北海道企業にはかなり示唆があります。
デザイン会社として一番勉強になったこと
僕らガイネットも、WEBサイト、映像、SNS、広告、ロゴ、パンフレット、店舗まわりのクリエイティブなど、企業がお客様と接するいろいろな部分をつくっています。
だからこそSHIROを見て、少し耳が痛くなる部分もありました。
制作物って、放っておくとバラバラになるんです。
Webを開けばWebの雰囲気があり、InstagramにはInstagramのノリが出る。営業資料を急いで作ったら別のテンションになって、店舗ではまた違う見せ方になる。
それぞれ単体では悪くなくても、全部並べると別人みたいな会社になることがあります。
SHIROはそこが強い。
店舗へ入った時の感覚と、パッケージを手に取った時の感覚が喧嘩しない。Webや紙のグラフィックを見ても、その会社が大切にしているものが途中で行方不明にならない。
統一感という言葉だけだと、ちょっと軽いんですよね。
色やフォントを揃えれば済む話ではないからです。
必要なのは、「この会社なら、どう判断するか」という基準を持つこと。
それがあるから、媒体が変わっても人格が変わらない。
僕らが企業のブランディングやWEB制作をする時にも、もっとここまで踏み込まないといけないなと思いました。
名刺だけ格好良くして終わりでもない。
ホームページをリニューアルして終わりでもない。
お客様がその会社と出会う場所すべてで、「ああ、この会社らしいな」と感じられる状態までつなげる。
言うは易く行うは難し。
でも、それができた時、デザインは装飾ではなく経営になるんだと思います。
SHIROが売っていたのは、香水だけじゃなかった
帰りながら考えていました。
僕はSHIROの商品を見に行ったはずなのに、強く残ったのは建物だったり、グラフィックだったり、ガラス越しの工場だったり、人がそこで楽しそうに過ごしている風景だったりします。
でも、それでいいんでしょうね。
むしろ、それがブランドなんだと思います。
ロゴだけでもない。
香水の瓶だけでもない。
広告だけでもない。
その会社に触れた時に残る「なんか好きだな」の総体です。
そして、その「なんか」を偶然に任せず、ちゃんと設計している。
SHIROの「みんなの工場」を見て、そこが一番勉強になりました。
砂川にあるのは、SHIROの工場であり、本店です。
でもたぶん、それだけではありません。
SHIROという会社が何を考えているのかを、言葉ではなく歩いて読める場所です。
僕らもデザインを仕事にしている以上、見栄えのいいものを作って満足してはいられません。
会社の思想まで、ちゃんと見える形にする。
いやあ。
いい宿題を、砂川から持って帰ってきました。
株式会社ガイネット取締役。北海道デザイン協議会理事。デザイン系の専門学校卒業後、WEB動画系会社、フリーランスを経て現職へ。映像制作、アートディレクション、イラストを手掛ける。