丸亀製麺が丸一日うどんを売らない日の話

7月27日 21 07

「丸亀ファミリーホリデー」に見る、本当に人を大切にする会社の休み方

2026年7月29日、丸亀製麺へ行っても、いつものようにうどんは出てきません。

全国の多くの店舗が「丸亀ファミリーホリデー」のため、終日休業します。ショッピングセンター内など一部の店舗は営業しますが、前日の7月28日も、対象店舗ではメンテナンスのため営業時間を短縮する予定です。

飲食店が一日休む。

言葉にすると、それほど大きな出来事には聞こえません。個人店なら定休日もありますし、近所のラーメン屋さんが「店主体調不良のため休みます」と貼り紙を出すこともあります。

ただ、全国に800を超える店舗を持つ飲食チェーンが、多くの店の営業を同じ日に止めるとなると、話は少し変わります。

本来なら売れたはずのうどんを、あえて売らない。

家賃は休業日に合わせて遠慮してくれませんし、お店の機械も「今日はご家族との時間ですから」と維持費を免除してくれるわけではありません。

レジを開ければ売上が立つ日に、レジを開けない。

「従業員を大切にしています」と採用ページへ書くより、だいぶ重たい表現です。

休みを与えることと、店を閉めることは違う

従業員に休暇を取ってもらうだけなら、店を営業しながらでもできます。

シフトを調整し、有給休暇を取ってもらい、別の従業員に出勤してもらえばいい。多くの飲食店は、そうやって毎日の営業をつないでいます。

ただ、その方法では誰かが休んだ日に、別の誰かが働くことになります。

自分が家族と出かけている間、同僚は忙しい店でうどんを茹でている。休暇制度としては正しくても、真面目な人ほど少し気を遣います。

「すみません、その日は子どもと出かけるので」

本来、休むことに謝罪はいらないはずですが、シフトで回る現場では、この「すみません」が発生しやすいんですよね。

だから、一斉に店を閉める意味があります。

店そのものが営業していなければ、自分が休んだ分を誰かに押しつけた感じが薄くなる。少なくとも、通常営業を維持するための穴埋めを同僚へ頼む必要はありません。

丸亀製麺のファミリーホリデーは、単に休日を一日増やす施策ではなく、休む人に罪悪感を持たせにくくする施策でもあります。

休暇の日数だけを増やしても、人は必ずしも気持ちよく休めません。

休むための空気まで一緒に作らないと、制度だけが立派な顔で就業規則の中に座り続けます。

夏休みの一日は、来週へ振り替えられない

ファミリーホリデーは、夏休みが始まる時期に設定されています。

丸亀製麺では、昼間の店舗運営を子育て世代の従業員が支えている店も少なくないそうです。

飲食店は、世間が休んでいる時ほど忙しくなります。

土日、連休、夏休み、クリスマス。家族がお出かけをする日は、飲食店にとって書き入れ時です。

お客様の楽しい休日を支える側は、その日に家族と過ごせない。

サービス業では昔から当たり前のように扱われてきましたが、働く本人だけでなく、その家族にも負担があります。

子どもから見れば、「夏休みに入ったから一緒にどこかへ行きたい」と思った時、お父さんやお母さんは仕事に出ている。働く側も「今度ね」と言いながら、その今度がいつになるのかわからない。

仕事は翌日にもあります。

うどんも翌日また打てます。

ただ、その年の子どもの夏休みは、その夏にしかありません。

来週に振り替えられる仕事と、振り替えられない時間がある。丸亀ファミリーホリデーは、その違いを会社側が認めた施策でもあるんだと思います。

丸亀製麺は、人がいなければ商品が完成しない

丸亀製麺は、すべての店に製麺機を置き、店内で粉からうどんを作っています。

工場で完成した麺を店舗へ運び、温めて提供するだけではありません。小麦粉を打ち、その場で麺を切り、茹でる。天ぷらも店内で調理する。オープンキッチンから見える人の動きまで含めて、丸亀製麺という店の体験になっています。

効率だけを考えれば、もっと中央でまとめて作った方が楽な部分もあるでしょう。

店ごとに製麺設備を置き、技術を教え、人を育て、品質をそろえる。大量の店舗を展開するチェーン店としては、わざわざ大変な道を選んでいます。

でも、その手間が丸亀製麺の違いです。

目の前で麺が切られ、湯気が上がり、天ぷらが揚がる。店員さんが声をかけ、商品を渡す。うどん一杯の価格は手頃でも、店内にはちゃんと人の仕事が見えます。

だからこそ、働く人の状態が商品に出ます。

疲れきっている人が増えれば、接客の余裕がなくなる。職場に愛着を持てなければ、もう一歩の気遣いは生まれにくい。人手が足りなければ、手づくりを守ること自体が難しくなります。

「従業員を大切にすること」と「お客様に良い商品を提供すること」は、別々の話ではありません。

人の手を商品の中心に置く会社ほど、人の状態が商品の状態になる。

丸亀製麺が休業までして従業員の時間を作るのは、福利厚生だけではなく、手づくりという事業モデルを守るためでもあります。

“心的資本経営”という、なかなか立派な名前

丸亀製麺を運営するトリドールホールディングスは、2025年9月から「心的資本経営」という考え方を掲げています。

なかなか立派な名前です。

会議室で聞いたら、少し背筋を伸ばして資料をめくるタイプの言葉です。

内容を簡単にすると、従業員の心が満たされれば、自発的な行動や良い接客が生まれ、それがお客様の感動につながり、店の繁盛につながる。そこで生まれた成果を従業員へ返すことで、また良い循環が始まるという考え方です。

きれいな話ではあります。

ただ、企業理念というものは、大体きれいです。

「社員は疲れ果ててもいいので、利益だけを最大化します」と正直に掲げる会社は、まずありません。

大切なのは、言葉の後に何をしたかです。

丸亀製麺では、夏のファミリーホリデーだけでなく、2025年12月24日にディナー営業を休む「丸亀ファミリーナイト」を実施しました。2026年2月からは、一定の条件のもとで、従業員とその家族が店舗で無償の食事を利用できる「家族食堂制度」も始めています。

理念が、休業日や食事制度という具体的な形に変わっている。

さらに会社の発表では、心的資本経営の始動から約10か月で、社員とパート・アルバイトを含む離職率が前年度比で約25%低下し、2026年6月時点の在籍人数は前年同月より4,600人以上増えたとされています。

もちろん、これらの成果がすべてファミリーホリデーだけで生まれたわけではありません。

採用活動、待遇、店舗環境、景気など、さまざまな要因があります。会社が発表した数字なので、施策との因果関係も慎重に見る必要があります。

ただ少なくとも、「人を大切にすれば、いつか何となく良いことがあるでしょう」という精神論だけではなく、人材の定着や採用という経営課題と結びつけていることはわかります。

従業員の幸せを、美談ではなく資本として扱っている。

少し計算高く聞こえるかもしれません。

でも経営である以上、計算はあっていいんです。

優しい施策を、会社が長く続けられる仕組みにするには、事業上の成果にもつなげなければなりません。

良い取り組みは、良い広告にもなる

全国の店舗を休業すると、ニュースになります。

丸亀製麺へ行こうとしたお客様には不便が生じますが、その休業理由を知った人の中には、会社へ好感を持つ人もいるでしょう。

働いている人を大切にする会社なんだ。
家族との時間を考えているんだ。
アルバイトをするなら、こういう会社がいいかもしれない。

ファミリーホリデーは福利厚生であると同時に、採用広告であり、企業広報でもあります。

「休業まで宣伝に使うなんて」と斜めに見ることもできますが、良いことをして、それが広報にもなるなら別にいいと思います。

誰も幸せにならない施策を、広告だけで立派に見せるのは困ります。

でも、従業員や家族の時間を実際に作り、その結果として企業の評判も良くなるなら、かなり健全です。

企業の姿勢は、広告コピーより行動の方が伝わります。

「人を大切にする会社です」というテレビCMを流しながら、現場は一年中休めませんでは、さすがに麺より話が伸びています。

レジを一日止める。

その事実だけで、会社が言いたいことはかなり伝わります。

休業一日で、すべてが良くなるわけではない

ただし、ファミリーホリデーを必要以上に持ち上げるのも違います。

一日休業したからといって、飲食業界の長時間労働や人手不足が解決するわけではありません。

普段のシフトが厳しければ、一日だけ休んでも疲労は戻ります。賃金、教育、人員配置、休日数、店長のマネジメントなど、日常の働き方が整っていなければ、年に一度のイベントで終わってしまいます。

また、ショッピングセンター内など一部の店舗は営業します。すべての従業員が同じように休めるわけでもありません。

だから評価すべきなのは、「一日休みにしたから素晴らしい会社」という単純な話ではないと思います。

一斉休業を単発の美談にせず、家族食堂やクリスマスイブの時短、人材制度、普段の店舗運営まで一つの思想でつなげられるか。

続けることが大切です。

企業の本気は、一回の派手な施策より、翌年も同じ判断をできるかどうかに出ます。

2024年に終日休業を行い、2025年にファミリーホリデーと名づけ、2026年も続ける。

一日うどんを売らない判断が、少しずつ会社の文化になり始めています。

会社が大切にするものは、何を止めた時に見える

企業は、たくさんのことを始めます。

新商品を発売する。新店舗を出す。新しいサービスを作る。新しい制度を発表する。

始めることはニュースにしやすいです。

一方で、何かを止めるのは勇気がいります。

営業時間を止める。売上を止める。お客様の便利を一日だけ止める。

ファミリーホリデーが印象に残るのは、新しい福利厚生を追加したからではありません。

本来なら営業できる店を、休ませたからです。

会社が本当に大切にしているものは、立派な理念だけではわからないことがあります。

何のためなら、目の前の売上を手放せるのか。

何を守るためなら、いつもの営業を止められるのか。

そこに会社の優先順位が出ます。

丸亀製麺は7月29日、全国の多くの店でうどんを売りません。

その日にうどんを食べたかった人にとっては、普通に不便です。入り口まで行って休業を知ったら、「そこまで家族を大切にするなら、せめて昨日教えてください」と思うかもしれません。

だから、先に知っておきましょう。

7月29日は、多くの丸亀製麺がお休みです。

うどんは翌日にも打てます。

でも、その日にしか過ごせない家族との時間は、翌日の釜へ入れて茹で直すことができません。

一日うどんを売らないことが、長くうどんを売り続けるための投資になる。

丸亀ファミリーホリデーは、休むことも経営の一部なのだと教えてくれる施策です。

page top