
ヴィレッジヴァンガードに行く時、最初から「今日はこれを買いに行こう」と決めている人は、意外と少ない気がします。
本屋のつもりで入ったら、なぜか変なカレーを見ている。キャラクターグッズを見に行ったはずなのに、よくわからない置物の前で立ち止まっている。買う気なんてまったくなかったのに、「これ誰が買うんだろう」と思った商品を、最終的に自分が持っている。
ヴィレヴァンには、そういう少し負けたような買い物体験があります。
普通のお店であれば、「何屋かわからない」というのは弱点になりやすいものです。服屋なら服屋、雑貨屋なら雑貨屋、本屋なら本屋。売場はわかりやすく、商品は探しやすく、目的の商品まで迷わず行ける方が親切だとされます。
でもヴィレヴァンは、そこから少し外れています。
公式には「遊べる本屋」という言葉を掲げていますが、実際に店内を歩くと、本屋というより、誰かの頭の中をそのまま店舗にしたような感じがあります。本、雑貨、漫画、キャラクターグッズ、お菓子、音楽、映画、サブカル、よくわからない実用品のようなものまで、妙なテンションで同じ空間に置かれている。
この“整理されすぎていない感じ”こそ、ヴィレヴァンらしさなのだと思います。
ヴィレッジヴァンガードとは何の店なのか
まず、ヴィレッジヴァンガードというお店の立ち位置を整理しておきます。
公式会社概要では、ヴィレッジヴァンガードの事業内容は「遊べる本屋」をキーワードに、書籍、雑貨類、CD・DVD類などを融合的に陳列して販売する小売業とされています。
ここで面白いのは、「本屋」と言いながら、最初から本だけを売る店ではないことです。
本、雑貨、音楽、映像、キャラクターグッズ、食品、サブカル的な商品。普通なら別々の売場や別々の店に分けられそうなものを、あえて混ぜている。その混ざり方が、ヴィレヴァンの業態そのものになっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 創業 | 1986年11月 |
| 設立 | 1988年10月 |
| 事業内容 | 「遊べる本屋」をキーワードに、書籍・雑貨類・CD/DVD類などを融合的に陳列して販売する小売業 |
| 売上高 | 249億6,200万円 |
| 店舗数 | 293店舗(直営290店+FC3店)※2025年5月31日現在 |
つまりヴィレヴァンは、一般的な意味での本屋でも、雑貨屋でも、キャラクターショップでもありません。
“何屋かわからないこと”を、最初から店の個性にしている業態です。
普通の小売は「探しやすさ」を目指す
多くの小売店では、売場をわかりやすく整理することが大切です。
食品スーパーであれば、野菜、肉、魚、惣菜、飲料、日用品というように分かれていた方が買いやすいです。ドラッグストアであれば、薬、化粧品、洗剤、食品がきれいに分類されていた方が便利です。アパレルでも、メンズ、レディース、キッズ、サイズ、カラー、用途が整理されていた方が、お客様は目的の商品にたどり着きやすくなります。
これは、買い物のストレスを減らすためにはとても大切です。
ただ、探しやすさだけを追求すると、売場はどんどん効率的になります。効率的になるほど、お客様は最短距離で目的の商品へ向かい、買って、出ていく。便利ではありますが、寄り道は起きにくくなります。
ヴィレヴァンは、そこを少し逆に行っています。
目的の商品にまっすぐ向かうというより、店内をうろうろすること自体が体験になっている。買う予定のなかったものを見て、少し笑う。手に取るほどではないのに、なぜか誰かに見せたくなる。商品を探していたはずが、いつの間にか店そのものを見ている。
ヴィレヴァンは、目的買いの店というより、寄り道を売る店なのだと思います。
売場づくりの視点
ヴィレヴァンの価値は、商品を最短距離で見つけさせることではなく、目的外の商品に引っかからせることにあります。便利さとは別のところで、記憶に残る売場を作っているのです。
手書きPOPは、商品説明ではなく“店員の主観”である
ヴィレヴァンといえば、手書きPOPを思い浮かべる人も多いと思います。
黄色い紙、赤と黒の文字、妙にテンションの高い言葉、商品説明なのか感想なのかよくわからない文章。普通のPOPは、商品の特徴や価格、使い方、人気、限定感などをわかりやすく伝えるためにあります。
でもヴィレヴァンのPOPは、それだけではありません。
商品を説明しているというより、店員さんの感情が売場に漏れ出しているように見えることがあります。「これは便利です」ときれいに伝えるより、「これ好きなんですけど、わかる人います?」という空気に近い。商品を正しく紹介するというより、その商品に勝手に肩入れしている感じがある。
だから、見ている側も少し巻き込まれます。
広告やコピーの世界では、どうしても整った文章が求められます。わかりやすく、短く、伝わりやすく、誤解がないように。もちろんそれは大切です。でも、整いすぎた文章は、時に人の記憶に残りにくい。
ヴィレヴァンのPOPは、きれいな販促文とは少し違います。
うまい文章というより、熱のある文章。
正確な説明というより、売場にいる人の声。
きちんとした広告というより、店員さんが横から話しかけてくるような言葉。
それが、商品に妙な人格を与えています。
チェーン店なのに、チェーン店っぽくなりすぎない
ヴィレヴァンを経営やブランドの視点で見ると、かなり面白い矛盾があります。
チェーン店は普通、店舗ごとのブレを減らしていきます。全国どこでも同じ品質、同じ接客、同じ陳列、同じ体験に近づけることで、効率と安心感を作ります。多くの業態では、それが正解です。
でもヴィレヴァンの場合、あまりにも均一になりすぎると、魅力が薄れてしまう気がします。
店員さんの趣味、売場のクセ、POPのテンション、商品の並び方の違和感。そういう少し危なっかしい要素があるから、ヴィレヴァンはヴィレヴァンに見える。すべてを本部のマニュアル通りに整えた瞬間、「遊べる本屋」ではなく、「遊べる本屋っぽく作られた売場」になってしまう。
ここに、ヴィレヴァンの難しさがあります。
“変な店”は、狙って作ると急に寒くなることがあります。自然ににじみ出たクセは面白いのに、会議で決めたクセは少し恥ずかしい。自由に見える売場ほど、実は人の感覚や経験に支えられている部分が大きい。
ヴィレヴァンは、チェーン店でありながら、売場の人格を完全には消さないことで愛されてきた店なのだと思います。
ヴィレヴァンの強さは、そのまま難しさにもなる
もちろん、ヴィレヴァンのやり方には難しさもあります。
「何屋かわからないこと」を武器にする店は、何屋かわからないまま売上を作り続けなければなりません。わかりやすい定番商品だけで勝負するわけではなく、流行、サブカル、キャラクター、雑貨、本、食品、店員さんのセンス、店舗ごとの空気感が混ざり合って売場ができています。
これは、効率化や標準化と相性が悪い部分を含みます。
売れる商品をきれいに並べるだけなら、もっと効率的な小売店はたくさんあります。欲しい商品を検索して買うだけなら、ネット通販の方が早いです。価格や品揃えだけで勝負するなら、ヴィレヴァンの立ち位置は決して楽ではありません。
だからこそ、ヴィレヴァンは売場そのものに価値を持たせる必要があります。
商品を買うためだけではなく、見に行く理由がある店。
買う予定がなくても、少し入りたくなる店。
何も買わなかったとしても、何かを見た記憶が残る店。
その状態を作り続けるのは、簡単ではありません。
ただの雑多と、ブランドとしての雑多は違う
ここで大切なのは、ヴィレヴァンの売場は単にごちゃごちゃしているだけではないということです。
ただ商品を無秩序に置いただけでは、見づらい店になります。何がどこにあるかわからず、買いにくく、疲れる売場になります。雑多であること自体が魅力になるわけではありません。
ヴィレヴァンの面白さは、いろいろなものが混ざっているのに、ちゃんと“ヴィレヴァンっぽい”空気にまとまっているところにあります。
本、雑貨、キャラクターグッズ、変なお菓子、サブカル商品。ジャンルだけを見ればバラバラでも、店全体としては一つの人格に見える。そこに手書きPOPや店員さんの主観が加わることで、「この店が選んだもの」という空気が生まれる。
この「店の人格」があるかどうかが、ただの雑多とブランドの違いなのだと思います。
デザイン・広告への置き換え
ただ目立つだけ、ただ変わっているだけ、ただ情報量が多いだけでは、人の記憶には残りません。大切なのは、違和感やクセが、そのブランドらしさとしてまとまっているかどうかです。
ネット時代に、ヴィレヴァン的な売場が持つ意味
今の時代、便利さだけならネットが強いです。
欲しい商品を検索して、価格を比較して、レビューを見て、購入する。必要なものを最短距離で手に入れるなら、スマホで済むことが増えました。
だからリアル店舗には、検索では起きにくい価値が必要になります。
ヴィレヴァンのような店は、その意味で少し特殊です。最初から検索に向いていない価値を売っているようなところがあります。目的の商品にたどり着くというより、探していなかったものに出会う。便利な買い物というより、予定外の引っかかりを楽しむ。
ネットで「謎の置物」と検索する人はあまりいません。
でも、店頭で謎の置物を見て笑うことはあります。
ネットで「誰が買うかわからない変な本」と検索する人も少ないと思います。
でも、ヴィレヴァンの棚でそういう本に出会うと、つい手に取ってしまうことがあります。
検索は、自分が欲しいものを知っている時に強いです。
一方で、リアル店舗は、自分が欲しいと知らなかったものに出会わせることができます。ヴィレヴァンは、その可能性をかなり早い段階から売場にしていた店なのだと思います。
ヴィレヴァンから学べること
ヴィレヴァンの売場から学べるのは、単に「個性的な店にしましょう」という話ではありません。
むしろ、個性を出すことの難しさです。
個性は、ただ変わったことをすれば出るわけではありません。ごちゃごちゃさせれば良いわけでもありません。ふざければ良いわけでもありません。そこに一貫した空気があり、誰かの視点があり、商品や言葉に体温があるから、お客様は面白がってくれます。
これは、デザインや広告にも通じます。
きれいに整えることは大切です。情報をわかりやすくすることも大切です。しかし、ただ整っているだけでは、記憶に残りにくいことがあります。どこかに引っかかりがある。少しだけ違和感がある。誰かの主観や熱量が見える。
そういう部分があるから、人は足を止めます。
ヴィレヴァンは、効率の良い買い物を提供している店ではないかもしれません。
でも、記憶に残る買い物を作っている店です。
まとめ
ヴィレッジヴァンガードは、何屋かわからない店です。
本屋のようで、雑貨屋のようで、サブカルショップのようで、キャラクターショップのようで、でもどれか一つに決めてしまうと少し違う。
普通なら弱点になりそうなその曖昧さを、ヴィレヴァンはブランドにしてきました。
目的の商品に一直線で向かうのではなく、途中で変なものに絡まれる売場。きれいに整いすぎた売場ではなく、少し迷子になれる売場。便利さだけではなく、予定外の出会いがある売場。
何を買ったかより、何を見て笑ったか。
どの商品が便利だったかより、どのPOPに足を止めたか。
どこに何があるかより、店に入った時のあの変な空気を覚えているか。
そういう記憶の残し方をしてきたのが、ヴィレッジヴァンガードというお店なのだと思います。
ネットで欲しいものがすぐに買える時代だからこそ、リアル店舗には検索では起きない出会いが必要になります。
ヴィレヴァンは、かなり昔からその“検索しにくい価値”を売っていた店なのかもしれません。
デザイン系の専門学校卒業後、WEB動画系会社、フリーランスを経て現職へ。株式会社ガイネット取締役。映像制作、SNSプロデュース、グラフィックデザイン、イラストを手掛ける。