
デザインスクールの広告を見ているとWebデザイナーという仕事はなかなか魅力的に見えます。
未経験から始められるし在宅で働ける。
副業にもハードルが低そう。
パソコン一台で場所に縛られず仕事ができるのは魅力的。
実際、そういう働き方をしている人はいますし、スクールをきっかけに人生が変わった人もいるでしょう。
ただ、最近はデザインスクールを卒業した人たちが苦しんでいる人が多いことがSNSで見えてきています。
華やかな卒業生インタビューとは少し違う景色。
卒業したら仕事が始まると思っていた
2026年8月に公開されたある卒業生の体験談では、約30万円、1か月のWebデザインスクールを卒業したあとクラウドソーシングやSNSで案件を探し始めたそうです。
スクールに入る前は基礎を覚えてポートフォリオを作れば、卒業後には少しずつ仕事ができると思っていた。
ところが実際には、応募できそうな案件を見つけること自体が難しく応募しても返事が来るとは限らない。
実務経験を求められる案件も多く「スクールを卒業した」というだけでは仕事にならないことを実感したと書いています。
別の卒業生は最初の仕事がバナー1枚1,000円だったそうです。
手数料を引いた受取額は780円。
その後、Webデザインで月1万円を稼げるようになるまで約1年かかったと振り返っています。
転職を目指した人の体験談では、卒業後3か月で15社に応募して書類通過は1社、面接には進めなかったという例もありました。
その後ポートフォリオなどを見直し最終的には制作会社への転職に成功しています。
もちろんこれはネット上に公開された個人の経験です。
これだけを見て「デザインスクールを卒業しても仕事にならない」と結論づけることはできません。
ただ同じような場所でつまずいている人が何人もいることは気になります。
2校目のデザインスクールへ行く人もいる
調べていて、もう一つ気になったことがあります。
2校目、3校目のデザインスクールへ行っている人がいることです。
ある方は最初のスクールでデザインとコーディングを学び、ツールの使い方は分かるようになったものの「デザインとは何か」までは分からなかったと振り返っています。
そして別のスクールで学び直しています。
クラウドワークスのプロフィールにも1校目のWebデザインスクール卒業後にフリーランスとして活動したものの、「デザイン力のなさを痛感」し2校目へ入ったという経歴を公開している人がいました。
さらに、3つのデザインスクールに通い合計約60万円を使ったという人の体験談もあります。
これを見ると、「もう少し勉強すれば仕事になるはず」と学校から学校へ移ってしまう人もいるのかもしれません。
でも、本当に足りないのは勉強時間なのでしょうか。
広告が嘘という話ではない
一方で、スクール側の発信を見るとかなり印象が違います。
現在も「最短45日でWEBデザイナーになれる」と打ち出しているスクールがあります。
そこには「45日間でのスキル習得や採用を保証するものではない」という注意書きもありますが、卒業生の活躍事例や仕事獲得のイメージは大きく紹介されています。
別のスクールでは「未経験から最短3ヶ月で月収+30万円が実現可能」と紹介し、卒業生の月60万円、70万円といった実績を掲載しています。
こちらも収入を保証するものではないと明記されています。
こういう事例が嘘だと言いたいわけではありません。
実際に結果を出した卒業生なのでしょう。
ただ、僕たちはどうしても目立つ事例を「普通の未来」だと感じやすいんですよね。
スポーツジムの広告に一番変化のなかった人は出てきませんし、英会話教室の広告にも途中で勉強をやめた人はあまり登場しません。
デザインスクールも同じなのかもしれません。
成功した卒業生を見ることは大切ですがその人が平均なのか、かなり頑張った人なのかでは話がまったく変わります。
「作れる」と「仕事ができる」はかなり違う
では、実際のWebデザイナーは何をしているのか。
厚生労働省の職業情報サイト「job tag」を見るとなかなか興味深い。
Webデザイナーの仕事として、依頼主との打ち合わせ・目的や予算・納期の確認・コンセプト設計・デザイン・素材制作・取材・文章や図表の作成・修正・動作確認・公開後のメンテナンスなどが挙げられています。
こうして見るとPhotoshopやFigmaを使えることは仕事の一部分でしかありません。
お客様自身も「何を作ればいいのか」が分かっていないところから始まることがあります。
話を聞き目的を整理して、「だったら、こう見せたほうが伝わりそうですね」と提案する。
予算や納期もあります。
途中で話が変わることもありますし、作ったものを見せたら「なんか違う」と言われることも。
この「なんか違う」を一緒にほどいていくのも仕事だったりします。
スクールの課題とはかなり違う世界です。
卒業したばかりで困るのはある意味当然なのかもしれない
job tagにはもう一つ面白い数字があります。
Webデザイナーとして働き始めたあと、特別なサポートがなくても一般的な就業者と同じように働けるようになるまでの期間について「未経験でもすぐに即戦力」とした回答は7.5%でした。
1か月超〜6か月が24.5%、6か月超〜1年が17.0%、1年超〜2年が20.8%となっています。
この数字を見ると数か月スクールへ通った人が卒業した瞬間に一人前になるほうが、むしろ不思議なのかもしれません。
実際の求人にも「Webデザインの実務経験2年以上」を条件としているものがあります。
ここに少し厄介な矛盾があります。
仕事をするには実務経験が欲しい。
でも実務経験を積むには、仕事を取らなければいけない。
初心者が最初につまずく場所です。
だからスクールが無駄ではない
ここまで書くと「デザインスクールなんて意味がない」という話に見えるかもしれません。
そうは思いません。
独学なら何か月も迷うところを順番に学べたりプロから添削を受けられたり、一緒に勉強する仲間ができたりする。
良いスクールならかなり大きな価値があると思います。
問題はスクールを卒業することと、デザイナーとして仕事ができることを同じゴールにしてしまうことです。
もしかすると、卒業はゴールではなく「ここから練習試合が始まる」くらいに考えたほうがいいのかもしれません。
最初の仕事でうまくいかない。
ヒアリングで聞くことが分からない。
見積もりで悩む。
修正が何度も来る。
自分では良いと思ったデザインが通らない。
たぶん、そういう経験をしながら覚えていくものがかなりあるんだと思います。
さらに「作れるだけ」では厳しくなる
そして今はAIがあります。
画像も文章も命令一つでなんとなく作れてしまう。
なんならWebサイトそのものまで、かなり簡単に作れるようになってきました。
クオリティ的には疑問符がつきますが一般の人は見た目に満足してしまうものが簡単に出てくる。
厚労省のjob tagにもWeb制作ツールの普及や生成AIとの競争によって、Webデザイナーには「高いクオリティで顧客のニーズに合ったWebサイト」を作ることがこれまで以上に求められているとあります。
そう考えると「Photoshopが使えます」「FigmaでWebサイトを作れます」だけでは、これからますます差がつきにくくなるでしょう。
大事になるのはその前の部分です。
この会社は何を誰に伝えるべきなのか。
何を見せて、何を見せないのか。
なぜ、このデザインなのか。
そこを考えられる人はAIが進化しても仕事が残る気がします。
デザインを学ぶこととデザイナーになること
今回、いろいろな卒業生の話を読んでいて感じたのは、スクールで学んだ人たちが悪いわけでもスクールがすべて悪いわけでもないということでした。
ただ、「デザインを学ぶこと」と「デザイナーとして仕事をすること」の間にある距離が入学する前には少し見えにくい。
ここはもっと知られてもいいと思います。
もし僕がこれからデザインスクールを選ぶなら華やかな卒業生の月収だけではなく、その人たちが卒業半年後、一年後にどんな仕事をしているのかを見てみたいです。
そして、ツールの使い方だけではなく、実際に仕事につながるところまで学べるのかも気になります。
デザインはソフトを使ってきれいな画面を作る仕事ではありません。
会社やお店の中にある魅力を見つけて整理して、相手に伝わる形にする。
そこまでできるようになるには45日でも3か月でも足りないことがあるでしょう。
でも、それは別に悲観する話でもありません。
卒業したところから本当のデザインの勉強が始まる。
そう考えておいたほうがむしろ長くこの仕事を楽しめるのかもしれません。
そんな場所を作っていけたらいいなと思っています。

株式会社ガイネット代表取締役 趣味は神社仏閣巡り 初めてホームページを作ったのは20年以上前。そこから2社ほどで修行し33歳でフリーランスに、色々あって今さら法人設立。WEBとデザインの何でも屋であり書家でありYouTuberです。