アパホテルはなぜ高収益を出せるのか

ChatGPT Image 2026年6月22日 19 18

アパホテルは、かなり不思議なホテルだと思います。

ものすごく高級なホテルというわけではありません。部屋が広いわけでもありません。むしろ実際に泊まったことがある方なら、「部屋は結構コンパクトだよね」と感じたことがあると思います。

それなのに、街中であの赤い看板を見るとすぐにわかる。出張先や旅行先でホテルを探している時、候補に入ってくる。良くも悪くも、アパホテルという名前はかなり強く記憶に残っています。

ここが、経営的にとても面白いところです。

ホテル業界は、本来かなり比較されやすい商売です。楽天トラベルやじゃらん、Booking.comなどに並べられて、立地、価格、口コミ、部屋の写真で一瞬で比べられる。極端に言えば、同じエリアに似たようなホテルがあれば、安い方に流れやすい業態です。

つまり、ホテルは放っておくと「比較表の中の商品」になってしまいます。

その中でアパホテルは、単なる安いホテルとしてではなく、アパホテルという固有名詞で覚えられています。これは、とても大きなことです。

アパホテルの強さは「ホテル業」だけでは説明できない

アパグループは、2025年11月期の連結決算で、売上高2,667億円、営業利益1,014億円、経常利益996億円を発表しています。

項目 2025年11月期
売上高 2,667億円
営業利益 1,014億円
経常利益 996億円
当期純利益 672億円

単純計算で営業利益率は約38%です。

ホテル業でこの利益率はかなり強烈です。

もちろん、アパグループはホテル運営だけでなく、都市開発や不動産の側面も持つ会社です。だからこそ、単純に「宿泊サービスがうまい会社」として見るだけでは、アパホテルの本質は見えにくいと思います。

アパホテルの強さは、不動産、立地、客室設計、価格設計、予約導線、会員化、ブランド認知を一体で組み上げているところにあります。

ホテルはサービス業であると同時に、不動産業でもあります。

どこに建てるか。どれだけの客室数を入れるか。どの価格帯で売るか。どの予約経路からお客様を取るか。需要が高い日にいくらで売るか。リピーターをどう自社導線に戻すか。

この設計が、利益を大きく左右します。

ホテルの部屋は、明日に持ち越せない商品

ホテルの客室というのは、かなり特殊な商品です。

今日売れなかった部屋は、明日に持ち越せません。空室のまま夜が過ぎれば、その日の売上機会は消えてしまいます。食品のように在庫として翌日に売ることもできない。

だからホテル業は、いかに稼働率を上げるか、いかに需要が高い日に高く売るか、いかに空室を減らすかが非常に重要になります。

この視点で見ると、アパホテルの「都市型」「駅近」「コンパクトな客室」という設計は、かなり合理的です。

都市部には、常に宿泊需要があります。出張、観光、ライブ、イベント、受験、学会、インバウンド。特に駅前や繁華街周辺には、「そこに泊まる理由」が自然に発生します。

その限られた都市部の土地に対して、広い部屋を少数作るのか、必要十分な部屋を高密度に作るのか。この判断で、事業の収益性は大きく変わります。

アパホテルは、広さで勝つホテルではありません。

代わりに、駅近、機能性、予約のしやすさ、チェックインの速さ、価格変動、会員制度、そして圧倒的な認知で勝っている。

つまり、アパホテルは部屋の広さではなく、都市で動く人のための「効率」を売っているのだと思います。

「狭い」を、都市型ホテルの合理性に変えている

普通に考えると、客室がコンパクトであることは弱点です。宿泊者からすれば、広い部屋の方がうれしいに決まっています。

でもアパホテルは、それを「新都市型ホテル」というコンセプトに変えています。

ここがブランディングとして非常に面白い部分です。

弱点に見えるものは、ただ隠すだけでは弱点のままです。でも、その特徴に意味を与えることができれば、ブランドの一部になります。

たとえば、席数が少ない飲食店は「小さい店」ではなく、「店主の目が届く店」になるかもしれません。スタッフが少ない会社は「人手不足」ではなく、「代表が直接見る会社」になるかもしれません。商品数が少ない店は「品揃えが少ない」のではなく、「迷わず選べる専門店」になるかもしれません。

アパホテルのすごさは、コンパクトな客室を単なる弱点で終わらせず、都市型・高機能・効率という文脈に置き換えているところにあります。

これは、どんな商売にも通じる考え方です。

自社の特徴をどう見せるか。
お客様が弱点だと感じるかもしれない部分に、どう意味を与えるか。
その意味づけができるかどうかで、同じ商品やサービスでも見え方は大きく変わります。

アパホテルが見ているのは「部屋」ではなく「時間」

アパホテルを見ていてもう一つ面白いのは、時間に対する感覚です。

ホテルに着いた時、宿泊者は必ずしも長く丁寧な説明を求めているわけではありません。出張帰りや夜遅い到着であれば、早く部屋に入りたい。チェックアウトの時も、急いでいれば早く出たい。

アパホテルは、ここをかなり明確に見ています。

アプリチェックイン、1秒チェックイン、フリーチェックアウト。これらは単なるデジタル化ではありません。宿泊者の面倒を削る仕組みです。

おもてなしというと、何かを足すことだと思われがちです。丁寧な説明、手厚い接客、立派なロビー、広い客室。もちろん、それが求められるホテルもあります。

でもビジネスホテルにおいては、余計なことをしない価値もあります。

並ばせない。書かせない。待たせない。迷わせない。

これは、接客を減らしているのではなく、ストレスを減らしているのだと思います。

この発想は、今の時代のサービス設計としてかなり重要です。

人は、良いサービスだけを求めているわけではありません。面倒じゃないサービスも求めています。

一蘭が店員さんと話さなくてもラーメンを注文できる仕組みを作ったように、アパホテルはフロントで長くやり取りしなくても泊まれる仕組みを作っています。

どちらも、人の温かさを否定しているわけではありません。ただ、お客様が本当に求めている場面では、手厚さよりもスムーズさが価値になることを理解している。

ここには、とても大きな学びがあります。

外部予約サイトに埋もれないための自社導線

アパホテルは、直販導線も強い会社です。

ホテル予約は、外部予約サイトに依存しやすい業界です。外部サイトには強い集客力がありますが、その一方で、手数料もかかりますし、他社との価格比較にも巻き込まれます。

宿泊者から見れば便利な比較サイトでも、ホテル側から見ると、常に他社と横並びにされる場所でもあります。

そこでアパホテルは、アパ直、アパアプリ、会員制度、ポイント、1秒チェックインなどを組み合わせ、自社側にお客様を戻す仕組みを作っています。

これは中小企業にもかなり通じます。

SNSで知ってもらうことは大事です。Googleマップで見つけてもらうことも大事です。広告を出すことも、ポータルサイトに載ることも必要な場合があります。

でも、最終的にお客様との関係を外部媒体だけに預けていると、毎回比較されます。毎回価格で見られます。毎回他社と横並びになります。

だからこそ、自社サイト、公式LINE、メール、会員制度、予約導線、事例ページなど、自分たち側に戻ってきてもらう仕組みが必要になります。

アパホテルの強さは、泊まって終わりにしないことです。

一度泊まった人を、アプリや会員制度を通じて、次の宿泊につなげていく。外部予約サイト上の一利用者で終わらせず、アパホテル側の顧客にしていく。

この考え方は、かなり現代的です。

アパホテルは「顔」までブランド資産にした

アパホテルを語る上で、元谷芙美子社長の存在は外せません。

あの帽子、あの表情、広告やカレーのパッケージ。アパホテルと聞いて、社長の顔が浮かぶ人はかなり多いと思います。

これは、ホテルチェーンとしてはかなり特殊です。

普通、ホテルは建物、客室、価格、立地、サービスで覚えられます。経営者の顔まで覚えられているホテルチェーンは、それほど多くありません。

もちろん、好き嫌いは分かれると思います。むしろ、万人に好かれる無難なブランドではないかもしれません。

でも、覚えられている。

これはものすごく大きいです。

商売で本当に怖いのは、嫌われることよりも、何も覚えられないことかもしれません。もちろん、わざと嫌われればいいという話ではありません。ただ、誰にも印象を残せないブランドは、比較表の中に埋もれてしまいます。

アパホテルは、ホテルチェーンでありながら、記憶に残る要素をいくつも持っています。

赤い看板、短い名前、社長の顔、コンパクトな客室、チェックインの速さ、どこに行っても見かける安心感。

この積み重ねが、次にホテルを探す時の候補に入る理由になります。

ブランドとは、きれいなロゴを作ることだけではありません。おしゃれな広告を出すことだけでもありません。

お客様の頭の中に、どんな記憶として残るか。

これが非常に大事です。

アパホテルは「最高級」ではなく「必要十分」を極めている

アパホテルは、最高級の宿泊体験を売っているホテルではないと思います。

もちろん、アパホテル&リゾートのように大型施設や大浴場を備えたホテルもありますが、アパホテル全体の強さは、もっと別のところにあります。

都市で忙しく動く人にとって、必要なものを高密度にまとめ、予約しやすく、泊まりやすく、思い出しやすいホテルになっている。

ここが強いのだと思います。

宿泊者は、必ずしもいつも広い部屋を求めているわけではありません。出張や遠征や観光の拠点として考えれば、駅から近いこと、スムーズに入れること、清潔であること、必要な設備が揃っていること、価格と立地のバランスが合うことの方が大事な場合も多い。

アパホテルは、その「必要十分」をかなり徹底しているように見えます。

そして、必要十分を徹底すると、余計なコストを削れる。客室数を増やせる。運営を標準化できる。自社アプリや会員制度で再利用を促せる。結果として、利益率の高いモデルになっていく。

これは、かなりしたたかなビジネスモデルです。

中小企業がアパホテルから学べること

アパホテルから学べることは、かなり多いです。

一番大きいのは、弱点に見える特徴をどう意味づけるかです。

小さい会社だからできないのではなく、小さい会社だから代表が直接見ることができる。商品数が少ないから弱いのではなく、専門性が伝わりやすい。店舗が狭いから不利なのではなく、濃い体験が作れる。

そのように、自社の特徴にちゃんと意味を与えられるかどうか。

次に、お客様の面倒を減らすことです。

問い合わせが面倒。予約が面倒。説明がわかりにくい。支払いが面倒。来店後の流れがわからない。こうした小さなストレスを減らすだけで、体験価値はかなり上がります。

そして、自社導線を持つこと。

SNSや広告やポータルサイトで知ってもらうだけで終わらせず、公式LINE、ホームページ、メール、会員制度、予約導線、事例ページなど、自社側に戻ってきてもらう仕組みを作る。

最後に、記憶に残るブランド資産を持つことです。

名前、色、看板、代表者の顔、言葉、接客、商品体験、予約体験。お客様が何を覚えてくれるのかを意識しないと、どれだけ良いサービスでも忘れられてしまいます。

良い商品やサービスを持っていても、伝わらなければ選ばれません。便利でも、思い出してもらえなければ候補に入りません。

まとめ

アパホテルは、単に「安く泊まれるビジネスホテル」ではないと思います。

都市の宿泊需要を読み、客室を高密度に設計し、予約導線を自社に寄せ、チェックインの手間を減らし、強いブランド記憶を作っている会社です。

部屋の広さではなく、都市で動く人のための効率的な時間を売っている。

そして、コンパクトな客室という弱点に見える特徴さえ、都市型・高機能・効率という価値に変えている。

アパホテルを見ていると、商売において大切なのは、ただ良いものを作ることだけではないのだと感じます。

弱点に意味を与えること。
お客様の面倒を減らすこと。
自社の導線を持つこと。
そして、記憶に残る形にすること。

どれだけ良い商品やサービスでも、比較表の中に埋もれてしまえば選ばれにくくなります。

だからこそ、自社の特徴をどう意味づけ、どう使いやすくし、どう覚えてもらうか。

アパホテルは、その重要性をとてもわかりやすく教えてくれる事例だと思います。

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