
YouTubeをなんとなく流していたら、ある動画がおすすめに出てきた。
ニューヨークの大きなライブ会場。
ステージに立っているのは杏里。
若い外国人が、ぎっしり埋め尽くしている。
みんな笑顔で、腕を上げて、大合唱。
「アイキャンストップ!!ロンリーねーーす!」
サビの英語のところを、会場中が声を張り上げて歌っている。
「悲しみがとまらない」。
私がこどもの頃によく耳にしていた、あの曲だ。 1
983年のリリース。 40年以上前の日本のポップスが、2026年のニューヨークで、現地の若者を熱狂させている。
懐かしさと驚き。
「これは何が起きているんだろう」と思って調べ始めたら、思いのほか深い話だった。
そして最後には、私たちのようなWeb制作・マーケティングの仕事にも、直結する話かもしれないなと。
まず、何が起きていたのか
杏里さんの北米ツアー「City Pop Waves: ANRI LIVE 2026 U.S.A Timely!!」のライブ映像。
2026年5月17日、ニューヨーク・ブルックリンの歴史ある劇場「ブルックリン・パラマウント」での公演。 チ
ケットは完売。
「悲しみがとまらない」「Remember Summer Days」「Last Summer Whisper」のイントロが流れた瞬間、客席の熱狂が爆発して、大合唱になった。
チャック・ベリーやバディ・ホリーもかつてステージに立った、あの名門劇場。
なぜこんなことが起きたのか。

シティポップという「40年越しのバズ」
話は2010年代後半に遡る。
YouTubeのアルゴリズムが、竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」を、世界中のユーザーにおすすめ表示し始めた。
非公式にアップロードされた音源だった。
でもそのメロディと、謎めいたサムネイル画像が、洋楽しか知らなかった欧米の若者の心をつかんだ。
再生回数が爆発的に増えた。
その後、TikTokで松原みきさんの「真夜中のドア〜Stay With Me」を使ったダンス動画が世界に拡散した。
Spotifyのグローバルバイラルチャートで1位を獲得した。
こうして「シティポップ」という、1970〜80年代の日本のポップスが、世界の若者に「発見」された。
杏里さんはその文脈でもっとも注目されたアーティストのひとりだ。
「悲しみがとまらない」のB面収録曲「Remember Summer Days」は、Spotifyで5,700万回以上再生されている。
シングルのB面曲が、である。
アルバム未収録のB面曲が、40年後に世界で5,700万回聴かれるなんて、誰が想像しただろう。
これはシティポップだけの話じゃない
調べていくうちに気づいた。 これはシティポップに限った現象じゃない、ということに。
アニメ・マンガは、2024年に市場規模が約3兆8,000億円に達し、過去最高を更新した。
海外売上は10年で6倍以上に拡大し、今や国内を上回っている。
鬼滅の刃の劇場版は世界興行収入970億円超で、日本映画史上最高を記録した。
日本食の海外レストラン数は過去10年で3倍になり、2023年には世界に約18万7,000店が存在する。
農林水産物・食品の輸出額は2025年に1兆7,005億円を記録した。 抹茶の輸出は1〜8月だけで前年の通年を超えた。
観光では、2024年の訪日外国人が約3,687万人と過去最高を更新した。
2025年上半期も2,151万人と、上半期として過去最多だ。
武道では、空手の世界の愛好者は1億3,000万人。
日本国内の200万人の65倍が、海外にいる。
フランスでは毎年「ジャパンエキスポ」が開催されていて、2025年にはマクロン大統領が視察に来た。
世界で「日本」が、あらゆる分野で同時多発的に広がっている。
なぜこれほどの現象が起きているのか
3つの力が重なっている、と私は思う。
1. インターネットが「時代」を超越した
かつて、過去のコンテンツは「忘れられる」のが自然だった。
レコードは廃盤になり、映像は消え、書籍は絶版になった。
時間の流れとともに、文化は沈んでいった。
デジタルアーカイブに上がったものは消えない。
YouTubeやSpotifyのアルゴリズムは、「古さ」を気にしない。
良質なコンテンツと、それに反応するオーディエンスを結びつけるだけだ。
アルゴリズムには「時代」という概念がない。
だから1983年の楽曲が、2026年に「新しい発見」として届く。
過去の名作が、現在の作品と同じ土俵で競合し、勝ってしまう。
これは前代未聞のことだろうな。
2. AIが「言語」の壁を低くした
リアルタイム音声翻訳アプリが実用段階に入り、今や発話から1秒以内に翻訳が表示される時代。
話し終わる前に翻訳が「先読み」されるシステムまで登場している。
でもシティポップの現象を見ると、もっと根源的なことが起きている。
あの会場の若者は、日本語の歌詞をすべて理解しているわけじゃないだろう。
それでも「アイキャンストップ!!」と、全身で歌っていた。
言語を理解しなくても、感情は直達する。
音楽・映像・食・武道。
これらはいずれも、言語を介さない文化だ。
インターネットが最初に越境させたのは、翻訳ではなく「言語を必要としない感動」だった。
3. 「深いローカル性」が逆説的に世界に刺さった
従来のグローバル化は「強い文化が弱い文化を均質化する」モデルだった。
マクドナルドが世界を席巻するというやつだ。
でも今起きていることは逆だ。
シティポップは、1980年代の東京の都市生活者が抱いた「豊かさへの憧れ」という、極めて日本的で時代的な感情を持つ音楽だ。
武道は武士道に由来する。
和食は日本の自然観と季節感から生まれた。
徹底的にローカルなものが、グローバルに響いている。
インターネットが「地球規模で同じ感性を持つ人を探してくれる」
。
かつては物理的な距離が壁だったが、今は同じ感性を持つ人が地球の裏側にいてもアルゴリズムが繋いでくれる。
深く掘れば掘るほど、世界のどこかにいる「まさにこれを求めていた人」に届く。
これはマーケティングの話でもある
「面白い話だけど、うちの商売に関係あるの?」と思われたかもしれません。
シティポップの世界的ブームは、現代のマーケティングが進む方向をとてもわかりやすく示してくれています。
「広く薄く」より「深く狭く」のほうが、遠くまで届く時代になりました。
たとえば、こう考えてみてください。
「北海道のホームページ制作会社」と検索する人は大勢います。
当然、競合も大勢います。
では「北海道の飲食店のWeb集客に特化した制作会社」を探している人はどうでしょうか。
人数こそ少ないものの、その方は本当に困っていて、見つけたときの熱量がまるで違います。
さらに言えば、「北海道の飲食店」に関するコンテンツは、北海道の人だけが読むわけではありません。
「地方都市の飲食店Web集客」という課題を抱える人は仙台にも福岡にも場合によっては海外にもいます。
ニッチなコンテンツがロングテールで広い範囲に届く。
これが、インターネット時代のコンテンツマーケティングの本質だと考えています。
「深さ」の3つの軸
具体的に「深く絞る」とは、どういうことでしょうか。
3つの軸で考えると、わかりやすいです。
① エリアを絞る
「全国対応」より「旭川・札幌専門」のほうが、信頼されます。
地域の商慣習、気候、業種の偏り、地元ならではの事情を知っている会社に頼みたい、というニーズは確実にあります。
エリアを絞ることは、弱点ではなく強みになるのです。
② 業種・ジャンルを絞る
「中小企業全般」より「飲食店専門」「建設業専門」「士業専門」のほうが、その業種の方には響きます。
業界特有の課題と言葉を知っているからこそ「この会社は分かっている」という安心感が生まれます。
③ 時代・局面を絞る
「ホームページ制作」という大きなくくりではなく「開業前の飲食店が最初にやるべきWeb戦略」「コロナ後に顧客が変わった老舗が取り組む集客転換」のように、特定の局面や転換点に絞るとその局面にいる方に深く刺さります。
これら3つを組み合わせるほど、刺さる深さが増していきます。
「北海道の飲食店開業前のWeb戦略」という記事は検索ボリュームこそ小さいものの、その検索をした人の購買意欲と信頼感は極めて高いのです。
ただし「深い」だけでは届かない
ここで、ひとつ注意したい点があります。
シティポップが世界に届いたのは、「深さ」だけが理由ではありません。
「入口のわかりやすさ」が、セットになっていたのです。
イントロを聴いた瞬間に「なんかいい」と感じる。
曲のタイトルがわからなくてもメロディが頭に残る。
「これ何?」と調べてみると奥が果てしなく深い。
この構造がとても大事です。
入口は誰でもわかる。
奥は果てしなく深い。
ブログ記事で言えば、タイトルと冒頭の数行が「入口」にあたります。
読み手が「自分ごと」として読み始められるか。
「この話、続きを読みたい」と思ってもらえるか。
どんなに深い知識や体験を持っていても、入口でつまずかれてしまえば届きません。
「専門家が書いた難しい記事」ではなく「誰でも入れて、読み進めるほど深くなる記事」を目指すことが大切。
「本物体験」への欲求はさらに高まる
もうひとつ、これからのマーケティングで重要になることがあります。
バーチャルな越境が容易になるほどリアルな体験の価値が上がる。
YouTubeでシティポップを知った若者が、実際に日本に来てライブを体験する。
アニメで日本の神社を知った人が実際に神社を参拝しに来る。
SNSで旭川ラーメンを知った人がわざわざ旭川まで食べに来る。
2024年の訪日外国人が過去最高を更新しているのは、このデジタルからリアルへの循環が機能しているからです。
これは、私たちのビジネスにも直結します。
Webで「知ってもらう」
そして「信頼してもらう」
最終的に「実際に会いに来てもらう、依頼してもらう」。
この流れを設計することが、これからのマーケティングの本質になります。
コンテンツの役割は、「見込み客を探してくる」ことから
「本物の体験への入口になる」ことへと変わっていくのです。
北海道から、世界へ
最後に、少しだけ大きな話をさせてください。
「北海道で仕事をしている」というのはマーケティング的には弱点に見えるかもしれません。
東京ではない。
人口が多い都市でもない。
でも、今日の話を踏まえるとむしろ逆だと考えています。
「北海道を拠点にしている」という事実そのものがひとつの深いローカル性です。
北海道の気候の厳しさ、地方都市の経済構造、冬の商売の波、移住者と地元民の感覚の違い。
これらを、私たちは身体で知っています。
それは東京の大手制作会社がどれだけ優秀なスタッフを揃えても持てないものです。
シティポップが「1980年代の東京」という深さで世界に刺さったように、「2020年代の北海道」という深さで刺さるコンテンツもきっと作れるはずです。
深く掘ること。
エリアを絞ること。
時代を絞ること。
ジャンルを絞ること。
そうすれば地球の裏側の誰かにも届きます。
それが、インターネットとAIが書き換えたマーケティングの新しいルールなのかもしれません。

株式会社ガイネット代表取締役 趣味は神社仏閣巡り 初めてホームページを作ったのは20年以上前。そこから2社ほどで修行し33歳でフリーランスに、色々あって今さら法人設立。WEBとデザインの何でも屋であり書家でありYouTuberです。