山岡家はなぜ万人受けしないのに強いのか

ChatGPT Image 2026年6月12日 18 36

山岡家の前を車で通ると、看板を見る前に「あ、山岡家だ」とわかる気がすることがあります。

あの赤い看板。広い駐車場。深夜でも明かりがついている店舗。そして、店の外まで伝わってくる独特の存在感。

好きな人は、なぜか定期的に行きたくなる。
一方で、誰にでも軽くおすすめできるかというと、少し迷う。

でも、ここが山岡家のすごいところだと思います。

山岡家は、万人受けを狙って薄く広く好かれるブランドではありません。むしろ、好きな人に深く刺さるブランドです。

そして経営的に見ると、この「深く刺さる」という状態はかなり強いです。

山岡家は“無難なラーメンチェーン”ではない

ラーメンチェーンには、いろいろな勝ち方があります。

駅前で回転率を上げる店。ファミリー層に入りやすい店。安さと早さで選ばれる店。ご当地感や専門性で勝つ店。

その中で山岡家は、明らかに独自の場所を取っています。

山岡家の基本は、ロードサイド、広い駐車場、24時間営業、店内調理、濃厚な豚骨スープ、太麺。

この時点で、駅前の軽いラーメンとはまったく違います。

急いでいるビジネスマンが駅前でサッと食べるラーメンというより、車で移動している人、仕事終わりの人、深夜にしっかり食べたい人、濃い一杯を求めている人に刺さる設計です。

つまり山岡家は、ただラーメンを売っているのではなく、**「この時間、この場所、この濃さなら山岡家」**という利用シーンを取っているのだと思います。

数字で見ると、山岡家はかなり強い

山岡家を運営する丸千代山岡家の数字を見ると、その強さがかなりはっきり見えます。

2026年1月期の売上高は430億円、営業利益は46億7,800万円、経常利益は48億4,400万円。売上高・各利益ともに過去最高を記録しています。

前年の2025年1月期は売上高345億8,500万円、営業利益37億800万円、経常利益38億3,300万円だったため、売上高は約84億円増えています。

項目 2025年1月期 2026年1月期 増加額
売上高 345億8,500万円 430億円 +84億1,500万円
営業利益 37億800万円 46億7,800万円 +9億7,000万円
経常利益 38億3,300万円 48億4,400万円 +10億1,100万円
当期利益 28億3,200万円 36億8,800万円 +8億5,600万円

さらに注目したいのは、店舗数の伸び方です。

2026年1月期は、ラーメン山岡家を8店舗出店し、1店舗閉店。期末店舗数は195店舗です。

店舗数は大きく増えているわけではありません。
それでも売上は大きく伸びています。

ここがかなり重要です。

2026年1月期の決算説明資料では、売上高は前年比24.3%増、既存店売上は前年比19.1%増とされています。つまり、出店数を一気に増やして売上を作ったというより、既存店がかなり強く伸びているわけです。

これは経営者目線で見ると、かなり学びがあります。

新規出店や新規顧客獲得だけで伸びているのではなく、既存の店舗・既存のブランド力で売上を伸ばしている。これは、商品や体験がきちんとお客様の中に残っている証拠だと思います。

「クセ」は弱点ではなく、記憶資産になる

山岡家の面白さは、クセの強さを消していないところです。

普通、チェーン展開を考えると、できるだけ万人受けする味に寄せたくなります。匂いも抑えたい。味も軽くしたい。店舗も駅前や商業施設に入れたくなる。誰でも入りやすくしたくなる。

もちろん、それはそれで正しい戦略です。

でも山岡家は、そこに行ききっていません。

むしろ、濃厚な豚骨スープ、太麺、ロードサイド、24時間営業という特徴を保ち続けています。

これは言い換えると、嫌われないために薄めるのではなく、好きな人に強く刺さるために濃さを残しているということです。

ブランドにとって、これは非常に大事です。

「誰からも嫌われない」は、一見安全に見えます。
でも、誰の記憶にも残らない危険があります。

反対に、クセがあるブランドは、好き嫌いが分かれるかもしれません。
しかし、刺さる人には深く刺さります。

山岡家はまさに後者です。

セントラルキッチンを持たないという非効率

チェーン店として考えると、山岡家のやり方は一見かなり非効率です。

一般的に、チェーン展開ではセントラルキッチンを使うことで、品質を安定させ、店舗オペレーションを軽くし、効率よく展開することが多いです。

ところが山岡家は、公式に「セントラルキッチンを持っていない」と説明しています。スープは各店舗で素材から炊き上げ、材料は水と豚骨だけ。丸3日煮込み続け、4日目に提供するスタイルです。

これは、かなり手間がかかります。

でも、その手間こそが山岡家らしさになっています。

効率化すれば、もっと扱いやすい商品になるかもしれません。
しかし、効率化しすぎると、山岡家らしい強烈な記憶が薄くなる可能性もある。

経営では、何でも効率化すればいいわけではありません。

効率化してよい部分と、効率化してはいけない部分があります。

山岡家の場合、店内でスープを炊くことは、単なる調理工程ではなく、ブランドの核です。ここを外してしまうと、山岡家が山岡家である理由が弱くなる。

これは、あらゆる商売に通じる話です。

ロードサイドは弱点ではなく、戦略になっている

山岡家は、駅前よりもロードサイドの印象が強いブランドです。

一見すると、駅前にないことは不利に見えるかもしれません。人通りが少ない、ふらっと入るお客様が少ない、車が必要になる。

でも、山岡家の場合はむしろロードサイドであることに意味があります。

公式の採用サイトでは、山岡家は戦略的に駅近に適していないと説明されています。理由として、店内調理であること、太麺で提供に少し時間がかかること、24時間営業にはロードサイドのほうが合うこと、そして車で来るお客様のために広い駐車場が必要であることが挙げられています。

これは非常に面白いです。

山岡家は「駅前に出られない」のではなく、山岡家らしい営業を成立させるためにロードサイドが合っている。

つまり、立地もブランドの一部になっているわけです。

深夜に車で走っていて、赤い看板が見える。
駐車場に入り、濃いラーメンを食べる。
仕事終わり、移動中、夜中、早朝。

この体験は、駅前の小さな店舗では再現しにくいです。

山岡家にとってロードサイドは、単なる出店場所ではなく、利用シーンそのものを作る装置なのだと思います。

値上げしても客数が伸びていることの意味

2026年1月期の決算説明資料では、2025年1月期に7月と11月、2026年1月期に4月と10月の価格改定を行ったことが説明されています。

外食産業では、原材料費、人件費、光熱費などの上昇が続いています。価格改定は避けにくい状況です。

ただ、値上げをすれば必ず売上が伸びるわけではありません。むしろ、お客様が離れる可能性もあります。

山岡家が面白いのは、価格改定を行いながら、既存店売上や客数を伸ばしていることです。

これは、単に「価格を上げたから売上が増えた」という話ではありません。

お客様が、値上げ後も山岡家を選んでいるということです。

ここには、価格以上の納得感があります。

「安いから行く」ではなく、
「山岡家だから行く」
という状態に近い。

この状態を作れるブランドは強いです。

山岡家から学べる経営のポイント

山岡家の強さを整理すると、単にラーメンが美味しいという話では終わりません。

経営的に見ると、かなり明確な学びがあります。

1. 万人受けを狙わないことで、強い記憶を作る
誰にでも好かれようとすると、特徴が薄くなることがあります。山岡家は、濃さやクセを残すことで、好きな人に深く刺さるブランドになっています。

2. 非効率に見える工程が、ブランドの核になることがある
店舗でスープを炊くことは手間がかかります。しかし、その手間が山岡家らしさを支えています。

3. 立地は集客場所ではなく、体験設計の一部になる
ロードサイド、広い駐車場、24時間営業は、山岡家の利用シーンを作っています。

4. 価格ではなく、指名される理由を作る
値上げしても選ばれるのは、価格以外の理由でお客様の中に残っているからです。

中小企業の広告やブランディングにも通じる話

この話は、中小企業の広告やブランディングにもかなり通じます。

多くの会社は、発信するときに「できるだけ嫌われない表現」を選びがちです。

丁寧です。
高品質です。
安心です。
実績があります。
地域密着です。

もちろん、どれも大切です。

ただ、それだけでは記憶に残りにくい。

お客様に選ばれるためには、自社ならではの“濃さ”が必要です。

山岡家で言えば、濃厚な豚骨スープ、太麺、赤い看板、ロードサイド、24時間営業。

これらが組み合わさって、山岡家という記憶になっています。

会社の発信も同じです。

単にサービス内容を並べるだけではなく、
「なぜその会社なのか」
「どんな人に強く刺さるのか」
「どんな場面で思い出されるのか」
「何をあえて変えずに残しているのか」
を整理する必要があります。

まとめ:強いブランドは、嫌われないことより思い出されることを選ぶ

山岡家を見ていると、強いブランドは必ずしも万人受けしなくていいのだと感じます。

むしろ、誰にでも薄く好かれるより、好きな人に深く刺さるほうが強い場面があります。

山岡家は、濃厚な豚骨スープ、太麺、ロードサイド、24時間営業、店内調理という特徴を保ち続けています。

その結果、ただのラーメンチェーンではなく、
「あの山岡家」
として記憶されている。

経営において大切なのは、すべての人に好かれることではなく、自社を必要としてくれる人の記憶に強く残ることなのかもしれません。

山岡家は、ラーメンを売っているようで、実は「クセになる理由」を売っている。

その強さは、広告やブランディングを考えるうえでも、かなり学びがあると思います。

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