
ミスタードーナツの「もっちゅりん」が、かなり話題になっています。
「買えた」
「並んだ」
「売り切れていた」
「予約しようとしたけどつながらない」
「今年こそ食べたい」
SNS上でも、こうした声を見かけた方は多いのではないでしょうか。
新商品や期間限定商品が話題になること自体は、珍しいことではありません。ただ、もっちゅりんの広がり方を見ていると、単なる「新作ドーナツが美味しいから売れている」という話だけではなさそうです。
商品そのものの魅力に加えて、ネーミング、昨年の品薄体験、再発売への期待、ネット予約の混雑、店舗ごとの販売スケジュール公開、SNSでの購入報告まで、複数の要素が重なって話題化しています。
これは、SNS時代の商品開発や広報戦略を考えるうえで、かなり学びの多い事例だと思います。
もっちゅりんとは何か
もっちゅりんは、2025年にミスタードーナツ55周年記念商品として初登場した新食感ドーナツです。
公式発表では、「もちもちのその先」を目指して開発された商品とされており、国産もち粉と米粉を使用した生地に、独自のコーティングを組み合わせることで、弾力とやわらかさを同時に楽しめる“もっちゅり食感”を実現したと説明されています。
2026年には、昨年人気だった「きなこ」「みたらし」に加えて、「いちご」が新登場しました。販売開始は2026年6月3日。事前予約は5月14日からミスドネットオーダーで始まりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品名 | もっちゅりん |
| 初登場 | 2025年 |
| 位置づけ | ミスタードーナツ55周年記念商品 |
| 特徴 | 弾力とやわらかさを同時に楽しめる“もっちゅり食感” |
| 2026年の味 | きなこ、みたらし、いちご |
| 2026年発売日 | 6月3日 |
| 2026年事前予約 | 5月14日からミスドネットオーダーで開始 |
ここでまず重要なのは、もっちゅりんが「新しい味」ではなく、「新しい食感」として打ち出されていることです。
新商品というと、どうしても味の違いで勝負しがちです。
チョコ味。
抹茶味。
いちご味。
期間限定のフレーバー。
もちろん、それも強い訴求です。
ただ、味はある程度想像しやすい一方で、驚きには限界があります。もっちゅりんの場合は、「食感」そのものを商品の中心に置いています。
これが、話題化の大きな入口になっていると思います。
「もっちゅりん」という名前が強い
もっちゅりんがここまで話題になっている理由を考えると、まず名前の強さは外せません。
「もちもち」ではなく、
「もっちり」でもなく、
「もっちゅりん」。
少し不思議な言葉です。
でも、一度聞くと忘れにくい。
しかも、なんとなく食感が想像できます。
商品名を聞いただけで、「普通のドーナツとは違うのかもしれない」「どんな食感なんだろう」と思わせる力があります。
これはSNS時代の商品名として、とても強いです。
SNSでは、商品そのものより先に“言葉”が広がります。実際に食べる前から、商品名だけで話題になるかどうかがかなり重要です。
商品名が、そのまま体験の予告になっている。
もっちゅりんの強さは、まさにここにあります。
「新作ドーナツを食べました」よりも、
「もっちゅりん食べました」
の方が、圧倒的に投稿したくなります。
「もっちゅりって何?」
「本当にドーナツなの?」
「名前がかわいい」
「食感が気になる」
こうした会話が生まれやすい。
つまり、もっちゅりんは味や品質だけではなく、名前の時点でSNSに乗りやすい設計になっているのだと思います。
去年“買えなかった人”が、今年の熱量を作っている
もっちゅりんは、2025年に初登場した際にも大きな反響がありました。人気が高まり、商品を届けられなかったお客様がいたことを、2026年の公式リリースでも触れています。
ここが非常に重要です。
本来、品切れは企業にとって機会損失です。売れるはずの商品を売れなかったわけですから、単純に考えればもったいない。
ただ一方で、品切れはお客様の中に強い記憶を残します。
「あのとき買えなかった」
「食べたかったのに売り切れていた」
「SNSで見たのに、自分は食べられなかった」
「次に出たら絶対買いたい」
この感情は、かなり強いです。
2026年の再発売は、単なる新商品の発売ではありません。
昨年買えなかった人にとっては、リベンジの機会です。昨年食べた人にとっては、もう一度食べたい商品です。今回初めて知った人にとっては、「そんなに人気なら食べてみたい」と感じる商品です。
つまり、もっちゅりんは発売前の時点で、すでに期待値が高い状態を作っていました。
予約の混雑も“人気の証拠”になった
2026年のもっちゅりんは、5月14日からミスドネットオーダーで事前予約が始まりました。
しかし、予約開始直後からアクセスが集中し、公式サイトでも長く待つ状況が発生したことへのお詫びが掲載されています。ニュースでも、事前予約の混雑や待ち時間について取り上げられました。
企業側から見れば、これは当然ネガティブな出来事です。
買いたい人がスムーズに買えない。
予約画面に進めない。
お客様に不便をかける。
この状態は、本来であれば改善すべき課題です。
ただ、広報やSNSの視点で見ると、予約の混雑は別の意味も持ちます。
それは、人気の可視化です。
「予約サイトにつながらないほど人気」
「待ち時間が出るほど注目されている」
「みんなが狙っている商品」
こうした印象が、さらに話題を広げていきます。
もちろん、意図的に混雑を作るべきだという話ではありません。お客様の不満が大きくなりすぎると、ブランドへの信頼を損ないます。
ただ、今回のもっちゅりんのように、もともとの商品力や期待値が高い場合、混雑や行列や売り切れすらも「社会的証明」として働くことがあります。
多くの人が欲しがっている。
だから、自分も気になる。
この心理が、SNS上でさらに広がっていくわけです。
店舗ごとの販売スケジュール公開が“攻略コンテンツ”になった
今回特に面白いのは、公式が各ショップの販売スケジュールを公開していることです。
店舗ごとの販売時間、購入個数制限、整理券配布時間などを確認できる形になっており、販売状況に応じて情報が更新されています。
これは、単なるお知らせではありません。
お客様からすると、「どこで買えるのか」「何時に行けばいいのか」「整理券はあるのか」という行動に直結する情報です。
SNSやメディアから見ると、この情報自体がコンテンツになります。
「この店舗は何時から売るらしい」
「ここは個数が多い」
「整理券が必要」
「この時間なら狙えるかもしれない」
つまり、商品情報だけでなく、買い方まで話題になっているわけです。
これは広報戦略として非常に参考になります。
人気商品が出たとき、企業が情報を出さずにいると、お客様の不安や不満は増えます。
一方で、販売時間や購入制限、在庫に関する方針などを可能な範囲で公開すると、お客様は動きやすくなります。
そして、その情報はSNS上で共有されやすくなります。
商品を売るだけではなく、買うまでの情報設計も広報になる。
もっちゅりんの事例からは、ここを強く感じます。
なぜここまで売れているのか
もっちゅりんが売れている理由を整理すると、いくつかの要素が重なっています。
1. 商品名が覚えやすく、投稿しやすい
「もっちゅりん」は、普通の言葉ではありません。
だからこそ記憶に残り、SNSでも言いたくなります。商品名そのものが話題の入口になっています。
2. 食感という体験がわかりやすい
味ではなく、食感を中心にしている点が強いです。
「もちもちのその先」「弾力とやわらかさを同時に楽しめる」という説明は、食べる前から体験を想像させます。
3. 昨年の品薄体験が、今年の期待値を作っている
去年買えなかった人がいることが、今年の再発売への熱量につながっています。
「今年こそ食べたい」という気持ちが、事前予約や発売初日の行動を生んでいます。
4. 限定性がある
期間限定であり、店舗によって販売時間や販売数も異なります。
いつでも、どこでも、いくらでも買える商品ではないからこそ、「今買いたい」という気持ちが生まれます。
5. 買えた人も、買えなかった人も投稿する
SNSで強いのは、購入報告だけではありません。
「買えた」という喜びも、
「売り切れていた」という悔しさも、
どちらも投稿のきっかけになります。
この両方が発生しているため、話題が継続しやすくなっています。
SNS戦略として学べること
もっちゅりんの事例から、SNS戦略として学べることはかなり多いです。
特に重要なのは、SNSは「告知する場所」ではなく、「話したくなる理由を広げる場所」だということです。
単に新商品を投稿するだけでは、なかなか広がりません。
広がるためには、お客様側に投稿する理由が必要です。
| SNSで広がる要素 | もっちゅりんで起きていること |
|---|---|
| 言いたくなる名前 | もっちゅりんという独自の響き |
| 写真を撮りたくなる見た目 | 丸くてかわいい形、専用パッケージ |
| 体験を伝えたくなる特徴 | もっちゅり食感 |
| 今買う理由 | 期間限定、販売数の限り |
| 投稿する理由 | 買えた、並んだ、売り切れていた |
| 情報共有の理由 | 店舗ごとの販売時間や整理券情報 |
ここで大事なのは、SNS用の投稿を頑張るだけでは足りないということです。
SNSで広がる商品は、商品設計の段階からSNSに乗りやすい要素を持っています。
名前。
見た目。
食感。
限定性。
買うまでのストーリー。
投稿したくなる体験。
これらが揃うと、お客様が自分から広げてくれます。
広報戦略として学べること
広報戦略として見ても、もっちゅりんはかなり面白いです。
特に重要なのは、人気が出た後の情報公開です。
人気商品が売り切れると、お客様の不満も出ます。買えない人が増えれば、期待は怒りに変わる可能性もあります。
そのとき、企業が何も発信しないと、不満だけが広がります。
今回、ミスタードーナツはアクセス集中へのお詫びを出し、各ショップの販売スケジュールも公開しています。
これは、完璧な解決ではないかもしれません。
ただ、少なくともお客様に対して「状況を説明する」「買うための情報を出す」という姿勢を見せています。
広報において、これは非常に大切です。
人気が出たときほど、情報を出す。
不満が出そうなときほど、先回りして説明する。
お客様が次にどう動けばいいかを示す。
これができると、話題化による熱量を維持しながら、不満の拡大を抑えやすくなります。
中小企業は何を学べるか
この事例は、大手企業だけの話ではありません。
飲食店、小売店、美容室、整骨院、工務店、士業、制作会社など、中小企業のSNSや広報にもかなり応用できます。
大切なのは、ただ「新商品が出ました」「キャンペーンをします」と投稿することではありません。
お客様が人に話したくなる切り口を作ることです。
たとえば、次のような視点です。
- 商品名やサービス名は、覚えやすいか
- 写真を撮りたくなる見た目や場面はあるか
- 体験を一言で説明できるか
- 限定性や今選ぶ理由はあるか
- 買った人、利用した人が投稿したくなる理由はあるか
- 売り切れや混雑が起きたとき、きちんと情報を出せるか
- お客様が次にどう動けばいいか、わかりやすく伝えているか
SNS運用というと、投稿頻度や画像デザインの話になりがちです。
もちろん、それも大切です。
ただ本質的には、投稿以前に「広がる理由」が必要です。
もっちゅりんは、ドーナツそのものが魅力的であることに加えて、名前、食感、限定性、昨年の記憶、買うまでのストーリーが重なっています。
だから、SNS上で人が話したくなる。
これは、中小企業の広報でも非常に重要な考え方です。
まとめ:SNS時代の商品は、味や品質だけでは広がらない
もっちゅりんがここまで話題になっている理由は、単に美味しいからだけではないと思います。
もちろん、商品そのものの魅力は大前提です。
ただ、それに加えて、SNS時代に広がりやすい要素が揃っています。
「もっちゅりん」という言いたくなる名前。
「もちもちのその先」という気になるコンセプト。
弾力とやわらかさを同時に楽しめるという体験。
昨年買えなかった人の記憶。
再発売への期待。
予約の混雑や売り切れによる話題化。
店舗ごとの販売スケジュール公開による情報共有。
これらが重なって、商品が単なるドーナツではなく、参加したくなる話題になっています。
SNS時代の商品やサービスは、品質が良いだけでは広がりません。
お客様が話したくなる理由。
写真を撮りたくなる理由。
今買いたくなる理由。
買えたことを言いたくなる理由。
買えなかった人にも次の行動がわかる情報。
そこまで設計されて、初めて話題は大きくなります。
もっちゅりんは、ドーナツを売っているようで、実は「食べてみたい」「買えたと言いたい」「誰かに教えたい」という感情を作っている。
この事例は、SNS戦略や広報戦略を考えるうえで、かなり学びの多い成功例だと思います。
デザイン系の専門学校卒業後、WEB動画系会社、フリーランスを経て現職へ。株式会社ガイネット取締役。映像制作、SNSプロデュース、グラフィックデザイン、イラストを手掛ける。